役者、侑人は喘ぎたくない

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 明らかに不機嫌なオーラを出している侑人に、そういえばと中川はマネージャーとしての仕事モードに切り替え話を振る。 「作品が作品だから源氏名を使いたかったら用意しておくけど、どうする?」 「源氏名!?」 「そうそう。こういう作品では名前変える声優さんとかいるし、そのままでいいならいいけど」  確かに女性男性関係なく、年齢制限がある大人向けの作品に出る声優は名前を変えることがあるとは聞いていた。  侑人の所属する事務所では、基本的にはの仕事はほとんど来ることがなかったので、考えたこともなかったが本名でやるほど肝が据わってるわけではない。  それに、親友に……  ―――結子(ゆいこ)にだけは知られたくはない。 「源氏名でも何でもいいので変えて下さい!!」 「了解。」  侑人の必死な表情に中を察した中川はそれ以上何かを聞くことはなかった。  役者のプライベートに関して、必要な時以外は深く追求しないマネージャーに侑人は安堵の息をついた。 「特に候補がなければ名前、勝手につけるけどいい?」 「本名が割れない名前なら何でもいいですよ」 「じゃ、『(あま)ヨ ウカ』で」 「……なんスかそれ。」  聞きなれない言葉の羅列に首を傾げた侑人を見て、中川はにやりと悪魔のような笑みを浮かべた。 「何を言っているんだい、ウサ兄さんだろ?いや、それとも雪ウサギさん?」  中川は手元にあったパッドに『雪 卯(うさぎ)』と書き、その文字の下に『雨ヨ ウカ』と書いた。  昔のあだ名を分解して出来た名前のようだ。   「その呼び名アラフォーおっさんにはきついんですけど。」  この事務所に入った当初に呼ばれていた名前を聞いて、侑人は頭を抱えた。  若気の至りというか……いや、あの頃も20代後半に突入していて決して若いとは言いきれない年齢だったが……。
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