役者、侑人は喘ぎたくない

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 ウサギの耳が付いたパーカを10代、20代前半の女の子たちに着せられ、悪乗りした侑人も『ウサ兄さんだぞ!』とふざけて名乗ったところ、同じく養成所を通っていたメンバー全員に浸透し、今もあの当時を知る子たちからはウサ兄さんと呼ばれていた。  十年近く前の話をもってくるとは……このマネージャーも人が悪い。 「君が勝手に名乗ったんだろ。今だってウサ兄さんって、呼ばれているし。」 「そうなんですが!!中川さんまでそう呼ぶのはちょっと……」  後輩たちから呼ばれるのは、もう慣れているが中川さんに言われるとどうも居心地が悪い。  そんな侑人の気を知ってか知らぬふりをしているのか、マネージャーは楽しそうに「侑人くんをいじるの楽しいからなぁ」などと言っていた。 「源氏名も決まったわけだし、ちゃんと台本と資料を見て準備してきてね」 「資料?」  台本はともかく、資料とは?  侑人がぽかんとしていると眼鏡を光らせ、中川は不敵な笑いを浮かべた。 「BLのボイスドラマと小説、マンガだよ。侑人くん、経験ないでしょ?知識で補わないとね。」  どさっと、置かれた重そうな紙袋を見て侑人は机の上に思わず突っ伏したのだった。
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