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序
色鮮やかな色が分からなかった。
今日も、紅葉は色鮮やかな赤を見せているらしい。
十一月になり、こぼれる息さえ色味を帯びていた。白を基調とした水蒸気は、周囲の温度差に伴い視覚情報として現れる。朝方になると、霜が落ち葉や木の根元に侵食し、氷点下を下回る勢いで身に染みるように堪える程。
朝食もそこそこにして、予定のために制服を着飾る。
寒がりなモノで、マフラーと手袋は忘れずに支度を。
例年よりは暖かいと嘯いた天気予報に愚痴をこぼしながら、通学路を歩く。
車道や歩道は例年以上に忙しい様子だった。なんでも、祭り行事が恒例の日程よりも遅れたために、観光客が押し押せてきたとの事。観光地たる我が町は、こうした行事の度に忙しさを見せる。そのくせ人が居ない時は大抵の場合が常日頃だ。
こうして人が集まるのに何の利益も垣間見れない俺は、こうしてブツクサと独り言を垂れ下げながら校舎を目指している。
「……ちっ。」
何回目か分からない舌打ちが、今日も絶えない。
境内を通り過ぎると、先ほどから垣間見れタホ同社の列が後を絶たない。流れるように列に加わるモノ、その列を眺めながら何かしらを口にするもの。随分とのんきな表情を浮かべている者ばかりで、苛立ちも募る。
そんな観光客の目的は、系内に植えられた広葉樹の艶姿だ。
赤と黄色をベースとした見事な広葉樹を鑑賞し、祭事である宮下祭りに勤しんでいる。大の大人がこんな時間に平然とビールを片手にしている程度には、……この行事は相変わらずだ。
そんな団体様一行を片目に見て、また舌打ちをする。
何とも言えない怒りともどかしさが積もり上がるが、どうにか平然を装ってその場所を離れた。
見事に生える紅葉は、今日も汚らしい色をしている。
色彩は人によって見え方が異なるらしい。
それは、他人によって変わるし。それは五感の全てに言える事だ。
味覚が鈍い奴だっているし。
感覚が鈍感な奴もいる。
聴覚が無い奴もいれば。
嗅覚が異常な奴もいる。
それは個人個人の感覚の問題であり、強いて言えば個性に基づくものであり。
それは欠点ではなく、在り様の問題だった。
今日も舌打ちを続ける。
今日も決して平等ではない。
不意にスマホが鳴った。
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