2.予感

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♢ あれから1週間後。 ミラは今日も依頼所へやってきていた。 ヘレナの姿を探すが、珍しく今日はカウンターにいないらしい。 依頼所内の人々もどことなく落ち着かないようで、ざわざわと騒がしかった。 「ミラさん……。ミラさん、こちらへ」 奥のバーからダヴィッドがこちらに手招きしている。 珍しく眉間に皺を寄せており、普段と様子が違うことに、少し不安になる。 「どうしたんですかダヴィッドさん? 何かあったんですか?」 カウンターから身を乗り出してきたダヴィッドは、きょろきょろと周囲を見回した後、ミラに耳打ちするポーズを取った。 「ミラさん、これは城に勤める知り合いから聞いた話なんですが………。 リゲル国王が今日の昼、種族平等宣言を出すそうです」 「種族平等宣言…って、なんですかそれ?」 聞いたこともないような言葉に、ミラは顔をしかめた。 「種族間の平等を重んじるため、一定数の人口に満たない種族の人口を増加させる……それが種族平等宣言です。 国王の判断で発令ができるんですが、歴史上まだ一度も発令されたことがないのです。 ………………ここだけの話ですが、今回の宣言をするにあたって、リゲル国王はとんでもない政策を議会に承認させたそうですよ」 何だか話の雲行きが怪しくなってきた。 特に「人口を増加させる」というあたり、危険な匂いがプンプンする。 「その政策って…………?」 恐る恐る話の続きを聞いてみることにする。 「詳しくは分かりませんが、人間が対象の政策らしいです」 ダヴィッドの表情が一段と厳しくなった。 「……いいですかミラさん。今日はクエストを受けず、一日家にいてください。国王のスピーチは拡張魔法で聞こえるようになっていますから。 ……………ただ、万が一のことがあるかもしれません。政策の内容によっては、王都から離れた方がいいでしょう」 「王都を離れる!? そんなの出来ないですよ!」 つい大声を出してしまった。 案の定、周囲の客が一斉にこちらを振り返ってくる。 ダヴィッドは慌ててミラの口を塞いだ。 「しー! 声が大きいですよっ! ……王都から離れるというのは、万が一のことがあったらということです。 …………とにかく、今日のところは家で大人しくしておいた方がいいでしょう」 戦争に人生を振り回されてきたミラには、これ以上の転居はごめんだった。 人間を対象とした政策……嫌な予感がしてならないが、リゲル国王がこれまで成し遂げてきた数々の功績を考えると、何か考えがあってのことなのかもしれないとも思う。
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