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♢
あれから1週間後。
ミラは今日も依頼所へやってきていた。
ヘレナの姿を探すが、珍しく今日はカウンターにいないらしい。
依頼所内の人々もどことなく落ち着かないようで、ざわざわと騒がしかった。
「ミラさん……。ミラさん、こちらへ」
奥のバーからダヴィッドがこちらに手招きしている。
珍しく眉間に皺を寄せており、普段と様子が違うことに、少し不安になる。
「どうしたんですかダヴィッドさん? 何かあったんですか?」
カウンターから身を乗り出してきたダヴィッドは、きょろきょろと周囲を見回した後、ミラに耳打ちするポーズを取った。
「ミラさん、これは城に勤める知り合いから聞いた話なんですが………。
リゲル国王が今日の昼、種族平等宣言を出すそうです」
「種族平等宣言…って、なんですかそれ?」
聞いたこともないような言葉に、ミラは顔をしかめた。
「種族間の平等を重んじるため、一定数の人口に満たない種族の人口を増加させる……それが種族平等宣言です。
国王の判断で発令ができるんですが、歴史上まだ一度も発令されたことがないのです。
………………ここだけの話ですが、今回の宣言をするにあたって、リゲル国王はとんでもない政策を議会に承認させたそうですよ」
何だか話の雲行きが怪しくなってきた。
特に「人口を増加させる」というあたり、危険な匂いがプンプンする。
「その政策って…………?」
恐る恐る話の続きを聞いてみることにする。
「詳しくは分かりませんが、人間が対象の政策らしいです」
ダヴィッドの表情が一段と厳しくなった。
「……いいですかミラさん。今日はクエストを受けず、一日家にいてください。国王のスピーチは拡張魔法で聞こえるようになっていますから。
……………ただ、万が一のことがあるかもしれません。政策の内容によっては、王都から離れた方がいいでしょう」
「王都を離れる!? そんなの出来ないですよ!」
つい大声を出してしまった。
案の定、周囲の客が一斉にこちらを振り返ってくる。
ダヴィッドは慌ててミラの口を塞いだ。
「しー! 声が大きいですよっ! ……王都から離れるというのは、万が一のことがあったらということです。
…………とにかく、今日のところは家で大人しくしておいた方がいいでしょう」
戦争に人生を振り回されてきたミラには、これ以上の転居はごめんだった。
人間を対象とした政策……嫌な予感がしてならないが、リゲル国王がこれまで成し遂げてきた数々の功績を考えると、何か考えがあってのことなのかもしれないとも思う。
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