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アステル城のテラスに佇む一人の陰。
カーテンを開くと、後ろを振り返ったのはリゲル様だった。
「リゲル様、準備が整いました」
白銀の鎧を纏った長身の女、ナイローテ。
三つ編みにした桃色の長い髪を、2本のリボンのように床に垂らし、リゲル様に跪く。
「ああ」
「……いよいよですね」
「そうだな」
そのまま横を通り過ぎ、城内へ向かうリゲル様。ナイローテは立ち上がり、去り行く王の背中を見つめた。
「………………ナイローテ」
「はい」
「案ずるな。この私を誰だと思っている?」
己の気が乱れたのを瞬時に察知され、ナイローテはほんのわずかに目を見開いた。
「失礼致しました」
リゲル様が歩いていく足音の速さから、話は終わりだと悟った。
「リゲル様。やはり……あなたは………………」
カーテンを引いた王の間には陽光が通ることなく、一切の外光を遮断している。
そこでは黒いローブを纏った魔導士達が円になり、巨大な魔法陣を作り上げていた。
唯一、怪しい紫の光を放つ陣が広間を不気味に照らし、足元をぼんやりと照らしている。
広間の隅に控えていた魔導士の一人が、仄暗い闇から顔を出し、リゲル様へ跪く。
「陛下、拡張音声の魔法陣はいつでも発動いただけます」
「ああ。ナイローテより聞いている」
リゲル様は堂々たる闊歩で陣の中央までやってくると、張りのある響きの良い声で全ての国民に語りかけ始めた。
魔法陣がその声に反応し、顔が見えるほどにまで光が強くなる。
「全ての国民よ! 私は新アステル連邦王国国王のリゲルである!」
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