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ミラは依頼所から出て大通りを通り過ぎ、裏通りに入った。
表通りと違い建物の間取りはめちゃくちゃだ。
2階から4階の扉まで階段で繋がっていたり、住宅の幅が扉と同じくらいのものしかなかったりと、建物の境目があいまいになっている。
初めて来た人が迷っているのをよく見かけるが、王都の住人は親切にも案内役を買って出ることが多い。
「Morson」と書かれたアーチ看板を潜り抜け、煉瓦造りのアパートにある自室のドアを開けた。
「ただいま」
羽織っていた皮のコートを壁から突き出ている釘に引っ掛け、窓際の作業机に向かう。
表通りのアパートとは違い、裏通りには日中少ししか陽が入らない。
部屋の間取りも狭く、普段はベッドを椅子替わりにして作業をしている。
炊事場もないため、今日も要らなくなった調合器具を使ってご飯を済ませた。
しかし悪いことばかりではない。
王都の平均的な家賃からしてもこの部屋はかなり安く、一人暮らしのミラにとっては助かっている。
一番うれしいのは、シャワーが付いていることだった。
申し分程度ではあるが、暖かなお湯で体を清めることが出来るのは本当に有難い。
昨日買ってきた小瓶をガラス戸棚から5つ取り出し、植物の葉が散らばったベッドの上に腰かけた。
ネイビーで統一された膝丈ワンピースから脚が出ており、少し肌寒いのはいつものことだ。
机に積み重ねておいてあるホタル草を手に取ると、ミラは意識を集中させた。ふくらみのある花弁の口がゆっくりと閉じ、徐々に光り始める。
「これでよしっと……」
聖水が入ったガラス製のボウルに淡く光を放つホタル草を浮かべてゆっくりとかき混ぜると、まるで砂糖が水に溶けるように花弁だけが形を崩し始め、遂には薄い桃色の液体にホタル草の茎だけがボウルの縁へ張り付いていた。
「よーし完成! 後はこれを小瓶に入れるだけね」
計量レードルで出来上がった液体を小瓶に注ぎ、蓋を閉じた。
手際よく作ってあった『魔力回復薬』のタグを5つの瓶に結び付けたところで、ふうっと息を吐く。
「解熱剤を作ったらお昼にしよう」
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