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空がほんのりと朱色で染まり、ミラに引上げの合図を送ってきた。
そろそろ依頼所に戻った方がいいだろう。
外には肉食獣は勿論のこと、戦争で生み出された魔法生物や山賊がウロウロしているからだ。
早めに切り上げるつもりが、薬草探しに夢中で暗くなってきたことに気づかず、そのまま魔法生物に食い殺されたりする話は依頼所でよく耳にする。
急ぎ足で王都までの道のりを歩いた。
依頼所に着いた頃には既に空が暗くなっていた。
夜風ですっかり冷え切った体を温めたかったが、袋の革ひもが肩に食い込んでくるのをどうにか楽にしたかったため、先に納品することにした。
「ヘレナさん! これ、今日受注したクエストの分です」
「あらぁ! もうお仕事終わったの? 流石ねミラちゃん。
えーと、薬草と解熱剤と・・魔力回復薬ね。確かに納品頂きました。
じゃ、まず薬草の報酬80ピニャと、回復薬の800ピニャ、解熱剤の1000ピニャね!
解熱剤と回復薬はEランクの依頼でも難易度高い方だから出来る人が少なくて困ってたんだけど、ミラちゃんは本当に頼りになるわぁ!
これからもアステルの依頼所をごひいきにね」
「いえ、こちらこそです。こんなに報酬がもらえて私の家計も大助かりですから。またよろしくお願いします」
この依頼所には受付を取り囲むようにバーが併設されているが、今日のようにクエストをいくつもこなした後は、ここのお酒を飲むことにしている。
すっかり顔なじみとなったマスターに声を掛け、果実酒を受け取った。
一口飲むと、体中の疲れが一気に取れていくのが分かる。
「……っはあああ美味しい! ダヴィッドさんの作るお酒は最高です!
私、ここのお酒を飲む時いつも思うんです。生きててよかったーって」
「そう言ってもらえると、私も嬉しいです」
目にかかる程長い前髪が特徴的なマスターことダヴィッド・サンドラは、高身長スタイル抜群の男性で、俗に言う「イケおじ」だ。
ダヴィッドの作る酒は繊細で美味いと評判だが、それ以外の理由でも彼の人気は高い。
「ダヴィッドさん! 後で私達の方にもお酒を作りに来てよねっ! ダヴィッドさんに聞いてもらいたい話がいっぱいあるんだからぁ」
「あ、ダヴィッドさん! 是非こちらのテーブルにもいらしてください!」
「今日も赤茶色の髪が素敵だわ……! あぁ、どうやって話しかけたらいいのかしらっ!」
いや、普通に注文すればいいんじゃないかな?
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