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街の若い娘達はダヴィッドの姿を今日も拝もうと、クエストも受注せずによくこのバーへ飲みに来る。
お蔭で依頼所のバーはいつも客で賑わっているのだが、個人的にはもう少し客が減ってくれると静かになってありがたい。
「この店も、そろそろバーテンダーを募集しなければいけませんね」
彼女たちに手を振りながら、ダヴィッドはぼそりと呟いた。
ミラの2つ隣の席に座っている女性客がダヴィッドを凝視しているのに気が付き、ミラは苦笑する。
(そこまでガン見しなくても……)
「……今日も相変わらずの人気と忙しさですね。私のことはいいですから、あの人達のところへお酒を持って行ってあげてください」
「お気遣いありがとうございます。ですが、どなたも私の店に足を運んでくださる大切なお客様です。……ミラさんもそのお一人なのですから」
「あ、あありがとうございます」
目を細めて柔らかい笑みを浮かべるダヴィッドに大人の色気を感じ、思わずどもってしまった。
「おい、ダヴィッド! 忙しすぎて倒れてんじゃないかと思ってな。わざわざ見に来てやったぜ」
「お陰様で元気ですよ。全く……あなたはこの前も来たじゃありませんか。相変わらず面白い方ですね」
「わはは! まあそう言うな! こちとらやっと城の業務を片付けてきたんだからよ。後で酒を頼む」
「かしこまりました」
よくここへ来る客は、彼のことを「マスター」とは呼ばない。
顔なじみであることも理由の一つだが、わざわざ名前で呼ぶのは、マスターに止まらない彼の魅力があるからだ。
ダヴィッドは元々アステル城の兵士だったらしい。
元同僚の顔を拝みに来たと、さっきのように城仕えの者がダヴィッドに声をかけるのは、珍しい光景ではない。
何故兵士を辞めてマスターになったのかと聞いてみたことがあるが、「戦いよりお酒の方が好きなんです」としか答えてくれなかった。
「ミラさんのお仕事の方は順調ですか?」
「はい、今日もクエストをあっという間に片付けちゃいましたしっ! ……………………」
付け合わせの木の実を食べているミラが急に下を向いて静かになったのを見て、ダヴィッドは首を傾げた。
「どうしたんですかミラさん? ……この木の実はあまりお口に合いませんでしたか?」
「え、あぁいやいや! そうじゃないんです」
心配そうにするダヴィッドの不安をかき消そうと、両手をぶんぶんと振って否定した。
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