1.ミラ・ヨルド

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「私思うんですけど、リゲル国王ならもうこの先は安心なんじゃないかって。 王都に来てもう随分経ちますが、10年で王都の治安はかなり良くなったと思うんです。 物価も安定してきましたし……」 「確かに、リゲル国王に変わってから関税も撤廃されて商売もしやすくなりましたし、国に入ってくる商品も増えて豊かになってきましたね。 種族の差別を禁止する法律も制定されてから、完全ではないにしろ表立っての差別は少なくなったように思います。 特に国王の目の届く王都では目に見えて治安が良くなりましたから、地方から移住して来られる方も増えているそうですよ」 この世界には多くの種族が存在する。 人間、魔族、エルフの種族は三大種族と呼ばれ、その他の種族よりも圧倒的な人口を誇っている。 三大種族の中でもとりわけ人間が大きな割合を占めているが、人間が最も優れているという風潮が出来上がってからは、各地で種族間の差別が起こるようになっていった。 ——その風潮を助長させた張本人が、前皇帝だ。 以前この国を治めていた皇帝は、特に人間びいきの激しい男だった。 人間が有利になる政策を行ったことがきっかけとなり、大陸各地で民衆による反乱軍が決起。帝国軍と反乱軍は激しく争い、大陸全土を巻き込む戦争となった。 結果、種族間の差別意識を強く根付かせた人物として皇帝は倒され、帝国は解体された。 以後、この国は新たに国家体制が見直され、新アステル連邦王国として今に至っている。 「人間の多かったこの街も、今や世界中のほとんどの種族が揃うと言われるまでになりましたからね。 街中で他種族同士で楽しそうに話をしているのを見かけると、この国も平和になったなーって思うんです」 「そうですね……」 ダヴィッドは振り終わったシェーカーからグラスへカクテルを移した。 ガーネット色に染まったグラスの縁にラズベリーを差し込み、彼に熱い視線を送っている女性客の手元へすっと差し出す姿は、傍から見てもかっこいい。 席は2つも離れているが、女性客の真っ赤に染まった顔から立ち上る蒸気がこちらまで漂ってきそうだ。 あの人、顔がカクテルと同じ色になってる……。 ついつい小さな笑みがこぼれてしまう。 「ダヴィッドさんって本当にモテますよね。 でもそろそろお相手を見つけてもいいんじゃないですか? 独り身主義ってわけではないんでしょう?」
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