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真菜加に残された時間は少ない おそらく、会社にいられるのもあと3か月くらいだろう それもつわりがなければの話だ 今のところ軽い食べづわりと、日中少し眠くなる程度だった 真菜加には会社にいられる3か月の間にやらねばならないことがあった (犯人探し) 犯人探しは胎児の父親探しでもある 真菜加は開発部のドアを叩いた 開発部のエンジニアの李は32歳の中国人である 外国籍のエンジニアは多い 近くの女性社員に李を呼んでもらう 「はい?」 李は真菜加に初めて会ったような態度を見せた 「お疲れさまです。企画営業の滝沢です。あの、覚えてませんか?」 李は首をかしげた 「お仕事で一緒になったことって、ありましたっけ?」 「仕事ではないんですけど、ちょっと前に飲み会で…」 そこまで言うと李は思い出したように 「あ!乃木さんとこの部署の人ですね!先日はどうも」 急に親しげな笑顔を見せた 訛りのない、流暢な日本語を話す エンジニアのスキルだけでなく、対人能力も高そうだ 「李さんはあの後大丈夫でしたか?」 真菜加は飲み会の次の日によく交わされるような質問をした 「僕、お酒強いんで」 32歳よりずっと若く見える 大学生でも通るくらいのあどけない表情で人懐こく笑う 「それで、どうしたんですか?」 「あの、私、その時に着ていた服をクリーニングに出したんですけど、ポケットからこれが出てきて」 男性用のハンカチを差し出す 今回のために用意した偽物である 「なぜか私のポケットに入ってて、いまあの時バーにいたメンバーに聞いて回ってるんですよ。李さんの物じゃないですか?」 李は首をかしげた 「僕のじゃないです。すみません。でもなんで滝沢さんの服のポケットに入ってたんでしょうね?」 「借りてそのままにしたのかも」 「ああ、そういえば、八幡さんに介抱してもらってたね。フラフラになりながらトイレに行こうとするから」 「八幡さんですか?」 「覚えてない?」 「はい」 「でも、確かそのあと八幡さんはすぐに帰ってきて、タクシーに乗せて帰したって言ってたよ。みんなで、『帰して正解』って話をしたんだよね。滝沢さんがあんなに酔ったところなんてみんな見たことなかったみたいで、『何かあったのかな?』ってそのあと盛り上がったんだもん」 李は悪気なく何でも口にしてしまうタイプのようだ 真菜加がいなくなったあと、そんな話をしていたのか 八幡の介抱… 八幡は真菜加の3年先輩で、新入社員研修のデザイン部研修時に、メンターとして付き合ってくれたので気心は知れている だが、研修が終わってからは個人的なやりとりはほぼしていない 「八幡さんに聞いてみますね」 とはいえ、いまの話では八幡は真菜加をタクシーに乗せてすぐに店に戻ってきたということだから (犯人ではない??) しかし、真菜加自身はタクシーに乗った記憶がなく、実際目覚めたのはホテルの一室である
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