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美央は学生時代のバイト先で知り合った
会ってすぐに意気投合し、バイト先の友人やお互いの友達を巻きこんで、いわゆる青春を共に謳歌した
就職や、転勤や、結婚や、出産を経て、周りの友人の中には疎遠になる者も多かったが、美央だけは定期的に会う関係が続いている
「真菜加!」
待ち合わせ場所に先に着いていた美央が手を振る
この週末は体も心も消耗していたので、旧知の友の笑顔にホッとした
「なんか疲れた顔してるけど、仕事忙しいの?」
「会社の飲み会で飲みすぎて」
美央はだませない
嘘も言わないけど本当のことも言わない、と真菜加は決めていた
話せば美央はきっと自分のことのように怒り、嘆き、悲しむだろう
それだけは避けたい
なぜなら…
「脂っこいものはやめた方がよさそうだね?サラダバーにする?」
「そうして」
二人は2回ほど行ったことがある野菜中心の食事を提供するカフェに向かって歩きだした
ランチタイムのカフェのシステムは、メーンを一品選び、サラダバーとドリンクバーが利用できるものだ
「取りに行く?」
メーンが来る間に、サラダとドリンクを取りに席を立つ
カウンターには、定番の野菜から珍しい野菜まで、彩り豊かに配置されていて、これだけでインスタ映えがする
時折、カウンターにスマホカメラを向けている女性の姿が見られた
「あ、サラダほうれん草!葉酸葉酸」
美央がほうれん草を山盛りいっぱいに皿にのせた
脇に心ばかりのベーコンチップが添えられている
「とりすぎじゃない?」
「食べ物からの摂取なら食べすぎなんてないって」
確かに、一日に必要な緑黄色野菜の量は、こんなものではなかったはずだ
「妊活、頑張ってるんだね」
「まあね…」
美央が真菜加と遊ぶ理由はこれが大きいのかもしれない
美央は結婚は早かったが、いまだ子供がいなかった
学生時代に一緒に遊んだ友人たちは、次々に第一子、第ニ子をもうけていた
お互いに気を使うし、会いにくいのだろう
真菜加は独身だが、どちらの心情も理解できた
大切な友人だからこそ会えないこともある
会わない方がいいこともある
美央が子供を授かり、彼らの関係がわだかまりのないものになりますようにと、真菜加は願ってやまない
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