二度目の夏、途切れぬ涙と共に

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 「うう、あ、うう……」  いつものように、自然と涙が溢れそうになってきた。本当は泣きたくなんてないのに、どうしてもこの涙を抑えられない。  なんでこんなにすぐに泣いてしまうのだろうか? お父さんもお母さんも、こんなに簡単に泣いたりしない。私だけが泣き虫だった。  それなのに私は、いつも些細なことで感情が抑えられなくなってしまう。  寂しい時、お腹がすいた時、痛かった時、眠いだけで泣いてしまうこともある……  もちろん、お母さんに怒られた時もすぐに泣いてしまう。私が泣くとみんな困った顔をする。だから涙を止めたいのに、私は全然泣き止むことができなかった。  私は、どこかおかしいのだろうか? そんな不安を感じるだけで、また涙がこぼれそうになる。  なんでみんな、泣かずにいられるのだろうか?  お母さんもお父さんも、よく話をしている。私にはまだわからない言葉を使って色んな話をしている。時には大声で怒鳴りあっているけど、普段は楽しそうな会話を続けているんだ。  もしかすると、そうやって話すことが大事なのかもしれない……  お母さんたちと違って、私は人と話すことが苦手だ。伝えたいことがたくさんあるのに、いざ伝えようとすると上手く言葉が出てこない。  なんとか喋っても、なにかがおかしいのかよく笑われてしまう。何がおかしいのかもわからずに笑われてしまうのは、とても恥ずかしい……恥ずかしくてまた、涙を流して必死で何かを訴えることになるんだ。  だけど、何も伝わらないまま、まるで私が悪いかのように宥められてしまう。  もっと上手く人と話せるようになったらきっと、こんな風に泣いてばかりの自分から変われるのかもしれない。  ああ、だけど、なんだか暑い。とても暑い。  お母さんがすぐ近くにいる。暑い、なんとかして、そう伝えたいのに……  暑いってどんな言葉で言うんだっけ? 『あつい』? それとも『あいす』?  わからない、わからないよ! なんでわからないの? なんでわかってくれないの? 私はこんなに辛いんだよ? なんでお母さんは気付いてくれないの? なんで、ねえ、なんで!?  そこが限界だった。泣きたくないと思っていたのに、私のそんな薄弱な意思に反して涙が止めどなく流れ始めた。 「うう、あ、うう、うわああああぁぁぁぁーーーーーん!!」 「あらあらどうしたの? あらやだ、レースの隙間からお日様当たりっぱなし。暑かったね~ごめんね~」  暑くて、辛くて、恥ずかしくって……今日もきっとこのまま泣き疲れて寝てしまうのだろう。  でも、いつかたくさん喋られるようになって、泣き虫じゃない子どもになるんだ。  そう決意した人生二度目の夏、一歳三ヶ月のとある昼下がりであった。
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