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六、再開
リリアナの拓いたその美しい湾のまわりには、やがて人が集い、船の行き来する賑やかな港町となった。私はリリアナの遺骨とともに、町を見下ろす小高い丘の聖堂に祀られ、町を見守り続けた。
リリアナが鈴蘭を飲んで死んでしまったから、はじめのうちは悲しくて泣いてばかりいた。私は悲しみを打ち消そうと、リリアナの遺言に従い、町を見守り続けた。百年だ、百年経てば、リリアナはまた私に会いに来てくれる。
―百年のうちに私は多くの人の営みを見た。どの人間も心の内に切なる祈りの灯をともして日々を生きていた。この町が永遠に侵されることなく繁栄し、人々の心が安らかであるように。町の司祭が朝毎に私を鳴らすたび、私は朗らかに町を祝福した。
そのようにしてどれほどの月日が流れただろう。―私の音が聞こえているかい、リリアナ。私は今日も町を見守っているよ。まだ百年は経たないかい、リリアナ。私はずっと待っているよ……黄金の朝日を浴びながら、丘の下に眠るリリアナに呼び掛けたそのとき、こつ、こつと石段を登る音がした。
「友よ、待たせたな。百年眠るというのも悪くない。」
朝日を浴びた瑠璃色の瞳の乙女がそこにいた。聖堂の窓から顔を出し、卓の上に置かれた私を微笑みながら覗き込んでいる。
「おや、まあ、また泣いているのか、月の石よ。鐘になってもまだ月が恋しいのか。良いか、友よ。我とお前はもうすっかりこの町の守り神だ、もう月に帰るのは諦めるが良いぞ。」
リリアナは月の湖のように温かな手で私の柄を握り、海に向かって高らかに打ち鳴らした―百年は永い時だった。この町はいつまでこうして在るのだろう。百年ごとの再開が、私たちにはあと何回許されているのだろう。いや、今はそんなことは思うまい。
百六年前に鈴蘭の咲く丘で私を拾ってくれたときと変わらぬその笑顔が、金色に輝く美しい港を見下ろしていた。
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