二、友の物語

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二、友の物語

「遥か東の丘。月より落とされし石あり。汝その石を鋳て鐘となし、さいはての地にわが潮引き入れよ。その地に港を開き、汝は月の鐘とともに港の守護者となるべし。」  カティア女神のお告げだというその言葉を、リリアナは私に唱えてみせた。 「我の仕えし神殿はここより西の地、エダ山という、海を見おろす山の頂にあった。お告げを得たとき我はまだ十になったばかり、たったひとり、東へ東へと四年も旅をしてきた。そしてようやく、あの鈴蘭の丘でお前を見つけることができた。ようやくだ」  夜の焚火に赤く照らされながら、リリアナはにっこりとほほ笑んだ。長く旅をしたとも思えぬ肌の白さ美しさ、流れるような髪、少女には女神の加護が働いているのだと、私は確かに感じた―月にいた時分、地上に生きる多くの人間の祈りが届いた。人間の信じる物語を聞き、鳥や虫の歌を聞き、私は地上やそこに暮らす生物について多くのことを知っていた。 「故郷を遠く離れ、たった一人で旅をして、寂しくはないか」  私が問うと、リリアナは星に満ちた夜空を見上げ、やがて語り始めた。 「故郷に居場所はない。十四年前、我はエダ山の麓の浜に捨てられた素性の知れぬ赤子だった。ちょうどそのころから、なぜか麓の村々で不漁と凶作が続いたらしい。……ものごころついたときには、我は神殿の巫女で、そしてエダ山に不幸をもたらした疫病神として扱われていた……同じ神殿に仕える年上の巫女たちまでもが、我を避け、冷たい目で見ていた。  浜で我を拾い巫女として育ててくれた大巫女様だけが、我に愛情をかけてくれた。いつも励ましてくれた。おまえは疫病神などではない、カティア女神様がおまえをここに送ったのだ、いつかおまえは立派な巫女になって大勢の人を幸せにする、数え切れぬほど大勢の人を。私には見える……いつもそう言って背中をなでてくれた。  我が十になりし時、大巫女様はご高齢で天に召された。それからしばらくしてのことだ、我が女神の予言を聞いたのは……」  リリアナは草の上の私を手にとり、そっと握った。月の湖のように温かな手。 「我は幼き頃より、大巫女様と話せぬときは鳥や獣、草木や石とばかり話していた。ほかの人間には聞こえぬらしい、それらの紡ぐ言葉が。我が気味悪がられたのは、そのせいもあるかも知れぬな。しかし、月の石よ、そのおかげで、こうしてお前と語ることができて、我はとても嬉しい。お前はわが友だ、月の石よ。ともにさいはての地へ来てくれるか。その地で私は港を開き、やがてそこは多くの人の住む町となる。私はお前とともに町の守護者となるのだ。」  リリアナは私を友と呼んだ。美しく孤独な少女の友として在れるなら、私はもう月に戻りたいなどとは思わぬ、やがて鐘となり、地上にとどまりこの孤独な巫女とともに町の守護者になろうと、そのとき心に決めたのであった。
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