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三、海と月の色の鐘
旅を続けて鈴蘭の花の季節が二度巡った。リリアナは背も髪も伸びて麗しき乙女となった。私はもはや石ではなく、海を統べるカティア女神の装飾と文様を施した青鈍色の小さな鐘となっていた。
二度目の夏が過ぎて鈴蘭の赤い実が実る頃、私は北方の高原に暮らす炎の民の溶鉱炉によって錫と銅とともに鋳溶かされ、炎の民の鋳物師たちの岩のごとき手により磨かれたのであった。
リリアナはエダ山の神殿より持参していた紅と藍の宝珠をもって鋳造の対価とした。十のときに神殿を出てからずっと懐にしまって旅をしていた、やっと支払うときが来たと、彼女は鋳物師たちの前で晴れやかに笑っていた。
いまリリアナは、白と灰のまだらな馬の手綱を引き、毛皮のマントの中にすっぽりと私を隠している。空は灰色に渦巻き、枯れかけた野に雪がちらついていた。
「まるで子供を抱くようだぞ、友よ。」
白い息を吐きながら私に頬ずりをして、リリアナはまた私を友と呼び、にっこりとほほ笑んだ。
「馬に揺られてぬくぬくと、私はこの旅がいつまでも続いたら楽しいのだが。」
戯れに私が答えると、リリアナはふといつもの、どこか寂しい顔に戻って、ぽつりとひとこと、「そうだな。」と答えて喋らなくなった。次の村までどのくらいだろう、と言ってみても、積もる前には着きそうだな、と言ってみても、もうリリアナは黙ったままだった。
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