一、西から来た巫女

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一、西から来た巫女

「美しい石よ、なぜ泣いている?」  白色の可憐な花の海に沈む私に、少女の声がそっと舞い降りた。私は、地上に落ちた月の欠片であった。鈴蘭の咲くこの丘で、母親に捨てられた赤子のごとく泣き続けて、どれほど時間が流れたのだろう―数十年か、それとも数百年か。その日は真昼の白い月が空の高いところに淡く浮かんでいた。かつて私は、あの月とともにあったのに。あの月の一部であったのに。  少女は泣き叫ぶ私の前にひざまづき、白い華奢な手で私を拾い上げた。 「我とともに行こう。我には、お前の力が必要なのだ、月の石よ。」  少女は私にそのように語りかけ、立ち上がるとまた歩きはじめた。足どりは軽やかで、私の悲しみなどお構いなし、少女は私を得たことにとても満足しているようだった。私を握りしめる少女の手は温かく、陽光にぬるむ月の湖を思い出させた。その湖の浅きところに月の子として抱かれていた時分を夢に見て、私は少女の掌中で心安らかにまどろんだ。少女と地上を旅するうち、あれほど恋しかった月にそれほど戻りたいとも思わなくなっていった。彼女はリリアナという名であった。 「我にはさいはての地に港を開き、町を創る使命がある。カティア女神様のお告げなのだ」    丘の麓の木立の道で、野生のすももを頬張りながらリリアナは言った。カティア女神は海を支配する女神であり、波は女神の麗しい髪、潮汐は女神の呼吸。黄味がかった髪と瑠璃の瞳のリリアナは、海の女神カティアに仕える巫女であった。
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