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オレが今日もいつもの黄色いレインコートに長靴を履いて歩いていると、目に涙を浮かべている女子高生がいた。その手には封筒が握られている。
どうやらこの女の子はフラれてしまったようだ。よし、この人に雨を降らせよう。オレは持っていたホースの先を女子高生の少し上へ向けた。そして、ホースをつまむと水が勢いよく飛び出し、空中で拡散されると、雨のように降り注ぐ。周りにいた人間は傘を差したり雨宿りをしたりと、突然の雨から逃れようとした。しかし、女子高生本人は動かず、彼女の目からは涙が溢れだした。
「こっちは勇気を出したのに、なんでラブレターすら受け取らないのよ!」
愚痴るように泣く彼女にオレはひたすら雨を浴びせ続ける。やがて、水に勢いがなくなりホースの水が止まった。雨が上がり、泣き止んだ女子高生が顔を上げる。
「終わったものはしょうがない。またいい人見つければいいんだから」
太陽に照らされた顔は明るく輝いているように見えた。歩き出す彼女にオレは安堵のため息をつく。すると、今度は肩を落としたサラリーマンがいた。
「……怒鳴るなんて。このご時世に契約が取れるわけないのに」
どうやら上司に怒られたようだ。この人にも雨を降らせよう。オレは持っていたホースをサラリーマンの方へ向ける。そして、ホースの水を雨のように降らせると、サラリーマンの肩が震えた。
「あんなに怒る必要ないだろ! 上司のバカヤロー!」
サラリーマンは大声を上げながら泣き始める。局地的な大雨とその下でびしょ濡れになる男に行き交う人が戸惑っていた。しかし、サラリーマンは気にすることはなく泣き続ける。やがて、雨が止むと髪やスーツから水が滴るほどになった彼が顔を上げた。
「契約たくさん取って、見返してやる!」
そして、立ち上がると水の音を立て走り出す。そこの地面には水濡れでできた歩幅の広い足跡が残っていた。オレは僅かに額の汗を拭う。今日も「悲しみ」を洗い流すことができたようだ。
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