【3・再び、男】

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それに…しても…。 「まさかねぇ…」 と、俺は更に思いを馳せる。 まさか… 昨日、俺に酷い別れの文句を吐きやがったあのバカ女…元恋人の真輝子を殺して山に埋めた、 その次の日の晩に… 今度は、それと入れ違いみたいな形で… 今夜、夜の浜辺であんなにも美しい別の女性と出会って…その上、お互いに意気投合するだなんて! 「いやぁ、人生というのは、本当に分からないものだなぁ」 そう。 つまり、今の俺は… 不幸続きの人生を歩んで来た…現在、失業者であると同時に… 元恋人を手にかけた殺人犯でもある訳だ。 そして、これが… ちょっと人には言えない… 俺の『隠しごと』だ。 「俺の人生… 何てドラマチックな展開の連続なんだろう!アハッ!」 あ、そうか! まさしく、これが! 以前から、俺が興味シンシンだった… 『究極のドラマチックな展開』ってヤツじゃないか? だって、そうだろ? まさか、元恋人を殺した、殺人犯の俺が… 罪を犯したその次の日の晩に…今度は一転!別の美しい女性と、物凄く素敵な出会いを果たすだなんて! まさに!怒涛の急展開! これ以上のドラマチックな展開… 他に、有りはしないじゃないか! と、 その時、である。 「ウゥ…」 不意に、俺の両目から… 大粒の涙が… 滝の様に、溢れ出て来たのだ…。 「ウゥ…ウゥ…」 涙が止まらない。 俺は、これまで… 自分の人生が不幸であればあるほど… その『不幸続きの人生』を…『ドラマチックな展開の人生』という風に感じて、感動の涙を流して来た…。 そして、その一方で… 逆に、人生で何か良い事が有った時… 『嬉しさのあまり涙を流す』という経験が、これまで一度も無かった…。 しかし、 今、俺が流しているこの涙は… 紛れもなく、 生まれて初めて流した… 『嬉し涙』に違いない…。 何しろ、俺は… 遂に、夢にまで見た 『究極のドラマチックな展開』ってヤツを… 体験する事が… できたのだから……。 「ウゥ…ウゥ…ウゥ………」
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