【1・男】

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【1・男】

俺には… ちょっと人には言えない… ある『隠しごと』が有る………。 「いやぁ…。 今夜の月は、実に見事じゃないか」 俺は、目の前にぽっかりと浮かぶ美しい満月に思わず感嘆の声を上げた。 妖艶な月光が…たくさんの星々と共に夜空を彩っている。 ふと…目の前を一筋の流れ星がすうっと横切って行った。 今、俺の目の前には、夜空に浮かぶ美しい満月…そして、どこまでも広がる夜の海が横たわっている。 この浜辺は、夏の間は海水浴場としてたくさんの人々で賑わいを見せているのだが… 今は、秋。 少し肌寒さを感じる中、波打ち際で夜空を見上げている俺以外、辺りに人影は一つも見当たらなかった。 耳に聞こえて来るのは… 寄せては返す波の音だけだ。 「これ程の見事な満月…まさに『中秋の名月』だな…」 実は…俺は昔から満月を見ると… 何と言うか、体中の血液がグツグツと沸き立つ様な…『正体不明の妙な感覚』に襲われる事が時々、有る…。 と、 不意に… 「ウゥ…」 俺の両目から、涙がぽろぽろと溢れ出て来た。 実は… 俺が今、流した涙… 別に目の前の満月の美しさに感動して溢れ出た物ではない。 現在の俺自身の 『不幸な境遇に感動して』流れた涙なのだ。 不幸な境遇に『感動する』… というのは普通で考えたら、ちょっと理解しがたい感覚なのかもしれない。 普通、自分の不幸な境遇に涙を流すのであれば『悔しくて泣く』とか『悲しくて泣く』あるいは『恨んで泣く』ものであろう。 しかし、俺の場合は自分の身の上が不幸であればあるほど… 『感動の感情』が激しく押し寄せて来るのだ。 「俺の人生は、何て不幸の連続…何てドラマチックな展開の連続なのだろうか…。 まるで俺は、小説か映画の主人公の様じゃないか!」 俺は、なぜだか自分の人生を…どこか、他人事の様に… 客観的に見てしまうのである…。
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