29『阿弥陀さま?』

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29『阿弥陀さま?』

まどか 乃木坂学院高校演劇部物語・29    『阿弥陀さま?』 「おーい」  という声で目が覚めた。  ボンヤリと白い服を着た人たちが目に浮かんできた……天使さんたちだ。  十五歳のこの歳まで、わたしはいい子でいた……自己評価だけど。だから、わたしは天国に来たんだ……そう思った。  中央に、大天使ミカエルさま。両脇にきれいなオネエサンの天使がひかえていらっしゃる。  でもいいのかな。うちって、たしか浄土宗か、浄土真宗……じゃ、これは阿弥陀さま?  ドタっと音がして、阿弥陀さまの顔が、マリ先生のドアップの顔に入れ替わった。 「気がついた、まどか!?」  ドアップが叫んだ。 「こまりますね。これから、いろいろ検査しなくちゃいけないんだから」  阿弥陀さまが文句を言った。 「すみません」  ドアップのマリ先生の顔が、視界から消えた。  そして、ようやく気づいた。 ――わたしってば、助かったんだ……。  頭の中が、ジーンと痺れている。こういう時って、その混乱のあまり泣いちゃったりするんだろうなあ……ひどく客観的に見ている自分がいた。自分でも意外に冷静。  これが精神的なマヒであることは、あとになって分かってきた。  阿弥陀さんだと思ったのは、お医者さん。天使は、看護師のオネエサンだった。  その向こうに、うれし涙の、お父さんとお母さん。さっきドアップになったマリ先生の顔があった。 ――でも、どうして、わたし助かったんだろう……あの燃えさかる倉庫の中から……? 「もう、その袋、放してもいいんじゃないかな」  阿弥陀……お医者さんが言った。  わたしってば、衣装の入った袋を握りっぱなしだった。そのときは……素直に……は手放せなかった。  手を開こうとしても、袋の握りのとこを持った手は開かない。ナース(看護師って言葉は、このとき馴染まなかった)のオネエサンが、その見かけより強い力で、やっと袋を放すことができた。  それからCTやら、なんやらいろいろ検査があった。 「大丈夫、どこも怪我はしていないよ」  お医者さんが笑顔で言った。 ――よかった。 「でも、インフルエンザに罹っている。注射一本うっとこうね」  さっきのナースのオネエサンが注射器を、お医者さんに渡した。 「ちょっとチクってするよ……」  チクっとではなかった。グサッ!……ジワジワ~と痛みが走る。  お医者さんの向こうでニコニコしているナースのオネエサンが、白い小悪魔に見えた。  やっと解放されて、ロビーに出た。みんな待っていてくれた。 「お母さん」と、言ったつもりだったんだけど。白い小悪魔にマスクをさせられていたので、「オファファン」にしかならなかった。 「こいつが、おめえを助けてくれたんだぜ。さすが大久保彦左衛門の十八代目だ!」  お父さんが、そいつを押し出した。 「ども、無事でなによりだった……」  ヤツは……忠(ただ)クンは、煤と泥にまみれた制服姿で、ポツンと言った。 「ども、ありがとう」  マスクをつまんで、わたしもポツンと応えた。
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