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32『下町のシキタリ』
まどか 乃木坂学院高校演劇部物語・32
『下町のシキタリ』
昼には平熱になり、半天をはおって茶の間に降りた。
おじいちゃん、お父さん、柳井のオイチャンといっしょにお昼ご飯を食べた。
三人とも、わたしの回復を喜んでくれて気の早い床上げ祝いということになり、赤飯に鯛の尾頭付きがドデンと載った。
缶とワンカップだけど、ビールとお酒も並んでる。わたしはお粥と揚げ出し豆腐ぐらいしか口に入らない。まあ、なんでも祝い事にして一杯やろうという魂胆ととれないこともないけども、これも下町のシキタリ、愛情表現。ありがたくお受けいたしました。
宴たけなわになったころ、大学を早引けにした兄貴と、彼女の香里さん。エプロンを外したお母さん。伍代さん……はるかちゃんのお父さんと奥さんも加わった。
「商売物でなんだけど、販促兼ねてもらってくれる」
奥さんは蒼地に白の紙ヒコーキを散らしたシュシュを下さった。
香里さんはバイト先でもらったっていうネールカラーを、柳井のオイチャンは面白がって、チョチョイと真鍮板で三センチくらいの紙ヒコーキを作り、安全ピンを溶接してブロ-チにしてくれた。
「あ、わたしも欲しいなあ」
ということで、そのブローチはもう三つ作られ、伍代さんの奥さん、香里さん、そしてはるかちゃん用になったのよね。
後日、このブローチは伍代さんとこで商品化され、柳井のオイチャンに原作料が支払われ、オイチャンはご機嫌になっちゃった。
この日もらった物で学校にしていけるものは一つも無かったけど、やっとわたしの床上げ祝いらしくなって、わたしもご機嫌!
「え、はるかの番号知らないの!?」
宴もお開き近く、わたしとはるかちゃんのこと(ガキンチョのころスカートひらりやったこと)が話題になり、伍代のおじさんが驚いた。
「いや、ヒデちゃん(伍代のおじさん)とこの家のことだしよ……」
お父さんは頭を掻いた。
「水くせえなあ、はるかとまどかちゃんは幼なじみなんだしよ。家の問題がケリついてんのはジンちゃんも承知じゃねえか」
あっさり、はるかちゃんの携帯番号ゲット!
放課後の時間を待って、はるかちゃんに電話することにした。
その前に、電話とメールのチェック。
電話の着信履歴は無かった。クラブや、クラスの何人かからお見舞いのメールはてんこ盛り。みんな、言葉を工夫したり、デコメに凝ったり、見ているだけで楽しいものが多かった。
中には『火事お見舞い』を『家事お見舞い』とやらかしているものや、『草葉の陰から、御回復祈ってます』なんて、恐ろしく、でも笑えるものまであった(これが、なぜ恐ろしく笑えるか分かんないひとは辞書ひいてください)
『草葉の陰』は、夏鈴からのものだった。ラノベで覚えた言葉を使ったんだろうけど、事前に、言葉の意味くらい調べろよな……。
里沙からは『早く元気になってね』と、見出し。
――以下は、添付書類、パソコンに送付。
と、まるで事務連絡。
で、パソコンを開いてみた……。
なんと、わたしが休んでいた間の授業のノートが全部送られていた。で、これから毎日送ってくれるとのこと。持つべきものは親友だと、しみじみ思いました。
笑ったり、泣けたり、しみじみしたりして、メールのチェックは終わり。
え、だれか抜けてるだろうって……それはナイショ。あとの展開を、お楽しみに!
『お見舞い、ありがとうございます』をタイトルにして二百字ほどのメールを一斉送信。
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