1・鬼憑きの藤

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1・鬼憑きの藤

 薄紫の枝垂れた花が、風にさわさわと揺れている。  春の終わりに名残惜しく香る甘い匂いと、来たる初夏を連想させる爽やかな香りが絡み合い、見る者の心を鮮やかに奪っていく庭の藤棚。  ある者は純粋に美しさに惹かれ、ある者はその優しい花のさざめきに助けられ病を克服したという。  そしてまたある者は、美しさの影に潜む妖しい闇に怯えていた。  一房に咲く無数の小さな花が、揺れる度に囁き合う。  愛を囁き、呪いを囁く。  唐棣(はねず)の家に咲く、一本の見事な藤。  季節を問わず年中花を咲かせる美しいこの藤には、(あけ)色の瞳をした悲しい鬼が棲んでいる。
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