31人が本棚に入れています
本棚に追加
/16ページ
1・鬼憑きの藤
薄紫の枝垂れた花が、風にさわさわと揺れている。
春の終わりに名残惜しく香る甘い匂いと、来たる初夏を連想させる爽やかな香りが絡み合い、見る者の心を鮮やかに奪っていく庭の藤棚。
ある者は純粋に美しさに惹かれ、ある者はその優しい花のさざめきに助けられ病を克服したという。
そしてまたある者は、美しさの影に潜む妖しい闇に怯えていた。
一房に咲く無数の小さな花が、揺れる度に囁き合う。
愛を囁き、呪いを囁く。
唐棣の家に咲く、一本の見事な藤。
季節を問わず年中花を咲かせる美しいこの藤には、緋色の瞳をした悲しい鬼が棲んでいる。
最初のコメントを投稿しよう!