ATM[現代編]

1/1
前へ
/25ページ
次へ

ATM[現代編]

「どけよ、デカブツ。」 ATMの列に並んでいる妻の前にガラの悪い男性が割り込み彼女より先に取り引きを始めた。 僕は遠い場所にいたので、すぐに駆けつけられなかった。 いつもの妻なら胸ぐらを掴んで外に連れ出したりする事がある。 その後、連れ去られた人は静かに立ち去り妻はニコニコしながら戻ってくる。 一体何をしてきたのか気になるが、無事戻ってきてくれるなら文句はない。 しかし今回は、何もせず男を見逃した。 (何かあったか?) 心配になり駆けつけようとしたが妻の番になりATMで取り引きを始めた。 その後、すぐ取り引きを済ませ戻ってきたので妻の元へ駆けつけた。 「大丈夫?君が静かにしてるなんて珍しい。」 『……ここから少し離れたら話す。』 そう言った妻の顔が青ざめていた。 ただ事じゃない雰囲気を感じ取り僕は黙った。 割り込んできた男が、実はヤバイ人間だったりとかなのだろうか。 少し離れた場所で妻が周囲を見渡した後、僕に話してくれた。 『…実は変なものが見えた。馬鹿げた話だと思うけど。』 「大丈夫だから話してごらん。」 妻が少しずつ話してくれた。 『自分が順番的に使うであろうATMのコーナーが何故か幕が掛かったように暗くなっていた。 そこを使った客達の顔が真っ黒な穴が空いたようになって戻ってきて怖くなった。 いよいよ自分の順番になろうとした時、彼が割り込んでくれて正直助かった。』 とんでもない事を話したもんで思わずびっくりしてしまったが、彼女は誰かを怖がらせるような人ではない。 「君は平気だったの?」 『幸い隣のATMは普通で使った人にも異変がなかった。だから、大丈夫だと思う。』 彼女は無表情で話していたが怖かったのか、すごい手が震えていたし、視線が明後日の方向を見ていた。 そう、彼女は心霊といったホラー系が苦手なのである。 銃を持った人間に素手で立ち向かうくらい強いのに幽霊が苦手って驚きなのと視えてしまうのがすごいな。 変にポーカーフェイスなところがあるが、見ていて面白いし可愛いと思う。 その後は、気分を紛らわせながら買い物を満喫した。
/25ページ

最初のコメントを投稿しよう!

17人が本棚に入れています
本棚に追加