祓い師舞の事件簿

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「オレ、今回の依頼内容聞いてないんだよね、本家に来た案件だろ?依頼主って学校?」  リビングへと移ると、まるで実家のように寛ぐ雅美。ソファーへ背を預け長い足を組み、圭一に問いかける。 「コーヒーでいいよね」  マグカップを3つ乗せたトレーを持ちながら、舞がリビングへと入って来た。 「舞ちゃん、ありがとう」 マグの中身はコーヒー。雅美はブラック、圭一はミルク多めの砂糖なしのカフェオレ、自分にはミルクと砂糖を均等に入れている。それぞれの口に合うコーヒーをそれぞれの前へと置く。 足の低いガラステーブルを挟み、ソファーが対で置かれている。それぞれに圭一と雅美が座っているので、舞は雅美の隣に座った。圭一は不満そうに睨み付けてきたが、舞は無視した。 「依頼主についてはお前でも」 「学校じゃあないよ」 「舞!」 「別にいいじゃない、確かに本家に来た案件ではあるけど、元々は分家が調査してたものなんだし、雅美さんだって木葉分家な訳だし」 「……分家が調査?」  圭一の叱責を受け流した舞へ、更に質問が飛ぶ。 「二年前、連続殺傷事件がこの辺りであったの、で、その頃この辺に封印されてた鬼の祠が壊されたっていう報告を受けてそれの関連を調べてたの……あぁ、これ風間(かざま)家がね、調べてたの」 「未来(みらい)のとこか」 木葉分家は幾つかあり、雅美の家、中村家も風間家同様分家だ。 「うん、祠は開発業者が山の切り崩しの時に誤って破壊、直接その業者に被害は出てない……古すぎて何を封印していたのか、管轄はどこだったのか調べてもわからなかったわ、古くから鬼の祠と言われていたとだけ分かったの。でも、その一ヶ月後に獣に襲われたような傷口の死体が見つかりその後も三件起きていて、運良く逃げた被害者が言うには巨大な男……髪は長く黒い巨躯、鋭い鉤爪を持っていてまるで鬼だ……とね……」 「鬼、ね」 「そう、それで依頼が来た訳」 「でも分家にだろ?何で本家が出て……出たのか?また」  言いながら雅美は気付く、そしてそれは圭一が肯定し何が起きたのかを知らされた。 「……出た、分家が調べた所祠が何を封印していたのかはっきりとは分からなかったけれど、この辺りには鬼女伝説が残っていたんだ」 「鬼女伝説……?」 「戦国時代、この辺りに鬼女が出て子供を攫って食うという噂があって、それを聞いたこの地の城主がその鬼女を切って封印したという伝承だ」 「……まぁありふれたもんだけど、城主が封印?城主が雇った陰陽師が、とかじゃなくて?」 「そこまでは伝ってない、ただそういう話があるっていうだけみたいでな……ただ、その城跡は今は北守神社(きたもりじんじゃ)っていう神社になっている。城跡が神社っていうのもな、だからその城主っていうのが神格扱いされるような奴だったっていうなら封印したってのも強ち間違えではないのかもな」 放置しておいたら折角煎れたコーヒーが冷めてしまう。それに、雅美もおやつを買ってきてくれたのだ。テーブルの上には白い箱が置かれていた。多分これがおやつだろう。 舞がマグカップを手に取ると、思い出したように二人もコーヒーを口にした。 舞は置かれたままのおやつの箱の蓋を開けた。中には個包装された葉の形をしたパイが入っている、三枚取り出し銘々に配る。 「ふーん……北守神社ね……そこに鬼女が封印されている訳ではないのか?」 「違うようだ、ただ……」 舞はまだコーヒーをゆっくりと飲んでいる、代わりにと言うか兄である圭一が答えた。 「ただ?」 「……そこにはある刀が祀られていた……鬼を切ったとされる刀が。だが、それが盗まれた……それが二か月前……そしてまた事件が起きた……舞が通う学内で二人……全身の血液を抜かれた死体が発見されたんだ……」 「でも二年前のは獣に襲われて、今度は血が抜かれた?」 「正確に言えば吸われたらしい」 「……別の奴か?」 不審そうな雅美の問いに、圭一は首を振り答える。
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