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「ねぇ、3組の転校生見た?」
「3組?」
音楽室から教室へ戻る途中の廊下で、級友が思い出したように聞いてきた。
「そう、あと少しで夏休みなのにね、転校生だって、それがね、すっごい美少女なの!!」
「ふーん」
「アイドルにだってあんな美少女いないって位なんだから……美少女過ぎて近寄りがたいのよね……」
「へぇ、そうなんだ……」
転校生の話なんて聞いてない。不審に思いながらも、楽しそうに話す級友へ舞は相槌を打つ。
「ほら、こっちに歩いてくるセーラー服の子がそうだよ」
「……」
言われて正面を見れば、セーラー服姿の少女が歩いてくる。
身長は170センチに届きそうではあるが、全体的には華奢な作りだ。ほっそりとした長い手足、陶磁器のような白い肌、艶のある黒髪は胸元まで垂らされている。
小さな輪郭の中には正確無比なパーツが完璧に配置されている。確かに美少女と呼ぶに相応しい容姿だが、その顔には何の感情も浮かんでいない。
周囲からの視線など意に介さず、ゆっくりと歩いてくる。
「……超美人じゃん……」
「ねっ!なんでこんな田舎に転校してきたんだろうね?!」
無表情な為に冷たい印象を受けるが、笑えば変わるのかもしれない。ただ見ただけの印象ではあるが、彼女が笑ったところが舞には想像出来なかった。
「あ、ていうか移動しないと時間ヤバイよ?!」
「ほんとだ!急がないと!!」
見とれている場合ではない。トイレに寄りたかったのに時間はあるだろうか?
だが、見とれていたのは舞達だけではなかった。
廊下にいた生徒達の大半は、転校生に気を取られていたようだ。
彼女が廊下を通り過ぎると時間が動き出したように、皆が慌ただしく動き出した。
彼女の名前は加賀あすみ。
転校生については事前に調べられている筈、転入してくる事が分かっていれば情報は舞にも伝わっていた筈だ。だけど舞は知らなかった。
梓の調査漏れだったのか、後で確認してみよう。
急ぎ足で移動しながら、舞は転校生へ少しだけ警戒心を抱いた。
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