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浅井(あさい)さんは魅力的です。」  多田(ただ)はウィスキーを一口含むと、顔をしかめながらグラスを見つめて言った。  私の口から、つい短く息が漏れる。 「私、今年で41よ。こんなおばさんに冗談を言うもんじゃないわ。」  私は包み込むように、マティーニのグラスの足に両手を添えている。  薄暗く殺風景なバーだ。しかし私には居心地が良い。色彩はときに鬱陶しいものだ。 「僕は冗談は言いません。酒もまだ1杯目です。」 「休憩時間にビール、飲んでたじゃない。」 「ビールは、まあ酒に入りません。」 「屁理屈ね。」  私は苦笑した。彼も前を見つめて目を細めている。  私たちが知り合ったのは数時間前。足を運んだ演奏会で、この多田と席が隣りだった。もっとも最初は私と彼との間に、ひとつ空席があったのだけれど。  宵の口、私は開演時間ぎりぎりのホールに駆け込んだ。指定の席を探し出し、ひと安心して着席しようとすると、1つ空席を挟んで向こうに座っている男が私に向かってわずかに頭を下げた。私もそれに(なら)って笑みを作り会釈を返す。客席の薄暗さで男の顔立ちは鮮明でないが、多分私よりも若いだろう。 「まだあとちょっと、始まらないでしょう。」  男は私との間の空席に置いていた自身の荷物を、奥の席に移しながら言った。 「ああ、そうですか。よかった。」  演奏会場で、隣りの席の人間と二言三言会話を交わすことはままある。このときもそれくらいの認識で、奏者がステージに現れると私は男のことなどすっかり忘れて、奏でられる音楽に浸った。
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