30人が本棚に入れています
本棚に追加
藤井課長、と部下に呼ばれて顔を上げた。
「この案件、A班とB班の意見が中々擦り合わせられなくて、どうしましょうか?」
「えー、どうしようか?」
「それを聞いてるんですけど?」
部下には重い溜め息を付かれてしまう。
だが正直僕には荷が重い。なぜ僕は課長という役職に付いているのだろうと自問自答したくなるのを隣にいた同期の白石に遮られる。
「それなら両班で新たな意見を出してみるのはどう?」
「ああ、そうだね、そうしようか」
「分かりました、そうしてみます」
部下は僕にではなく、白石に頭を下げた。
「藤井お前な……」
「分かっているんだけど、ねえ?」
「課長の下なら誰もが認めるほどに力を発揮するのに、どうして上に立つとそう何も出来なくなる訳なんだろうな?」
白石の言う課長とは僕の奥さんである由紀の事だ。出産を機に退職した由紀の推薦とそれまでの僕の評価で今では僕が課長なのだが、白石は僕の事を課長とは呼ばない。
「僕は指示を出される方が向いてるんだ。指示を出すとか、まとめるとか向いてない」
「そんな事言ってたらお前その内降格だぞ?」
「ああ……」
その方がよっぽど気楽なのだが。そんな事言えまい。
「ほら12時だ。昼メシ行くぞ!」
立ち上がる白石につられて僕も立ち上がると弁当を持って食堂に向かった。
最初のコメントを投稿しよう!