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「ただいま」
「おかえりなさい」
家に帰ると美桜が泣いていて由紀さんが「いい子いい子」とあやしていた。
「お腹空いたよね、ご飯待ってね」
それは美桜に言ったのか、それとも僕に言ったのか判断が付かなかったのだが、あまりにも情けない顔を見られたくなくて、風呂に入って来るよ、と由紀さんの背中に声を掛けた。
「うん、ゆっくり入って来てね。パジャマの用意はしてあるよ」
由紀さんの顔も見ず、僕は急いで風呂場に逃げる。扉を閉めても美桜の泣き声は聞こえていた。
ゆっくり時間を掛け風呂から上がると食欲をそそる良い匂いが漂っている。
今晩は魚だな、と思いながら食卓に向かうと鰈の煮付けが待っていた。他にも牛蒡のきんぴらと芋の煮っころがし、ほうれん草のおひたしもある。
温かなご飯とお味噌汁を椀によそって、どうぞ、と言われるまま受け取った。
「ありがとう、いただきます」
「ゆっくり食べてね、私は美桜を寝かし付けてくるから」
由紀さんはグズグズと泣く美桜を抱いて寝室に消える。
その背中を見送って僕は、ほっ、と溜め息を付いた。情けない顔がバレていないようで安堵する。
美味しい夕食に元気を貰うと僕の顔色も幾分優れている気がした。
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