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しかし家に帰ると洗濯は取り込んだまま放置されており、風呂の掃除もまだされていなかった。
白石に言われた単語が頭に浮かぶ。
「由紀さんもしかして疲れてる?」
「え!?」
驚く由紀さん。そうして見てみると目の下にはクマがあり、肌艶も良くはない。
「違うよ。今日は昼から美桜の健診だったの。でも健診の子が多くて中々順番が来なくて、帰って来るのが遅くなっただけ。ごめんね、すぐに支度するから」
「うん。……良かったら、風呂掃除くらいしてこようか?」
「いいの、いいの、貴方は帰って来たばかりなんだからテレビでも見て休んでいてね!」
由紀はそう言いながらも泣きぐずる美桜を抱いてゆらゆらと揺れていた。よしよし、と背中をリズム良くトントンしている。
すると由紀さんは抱っこ紐を持ち上げ手早く美桜をおんぶした。
その姿でキッチンに立つのはよく見る光景だが、まさかそれで風呂掃除までするのか、と今度は僕が驚いた。
「美桜をおんぶして風呂掃除するの?」
「うん、美桜泣いてるからね」
「え、ちょっと待って、それなら僕がやるから、ね? 今日は僕がやる。だから由紀さんはご飯の支度してくれたら嬉しいな。お腹空いてるから、お願いね?」
「ごめんね、すぐにご飯の支度する。ごめんね……」
らしくなく何度も謝る由紀さん。
完璧な由紀さんでも疲れるし、完璧じゃなくなるんだと初めて知った日だった。
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