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epilogue
(風都は妖精界に里帰り中にて、今井と二人きり)
「え?この絵本って今井のおばあさまが描いたの?」
美しい表紙絵に惹かれて手に取った絵本は、人間の青年と、闇に囚われている妖精の恋物語。
「はい。その物語は祖父と祖母の馴れ初めが、まるっと全て描いてあるんです」
「祖父母の馴れ初め?って、ことは……今井のおばあさまって、もしかして妖精なの?」
「あれ、言ってなかったでしたっけ。もしかしても、もしかしなくても妖精ですよ」
「嘘っ。聞いてないよ。聞いてない。ちょっと、ここに座りなさい」
近くにあった座布団を引き寄せ、今井を隣に座らせる。
絵本には儚さを感じさせる繊細な線で、森の木々が描かれている。その中心の開けた場所で、手を取り合い、見つめ合っている青年と妖精。
「これが、祖父母です。祖父は、大学生の時、とある人物から妖精にまつわる情報を手に入れたんです。祖父はファンタジー好きでしたから、すぐにその情報をもとに海外に飛びました。妖精といえば、あの国ですよね」
今井は知っていて当たり前だという顔をしている。どこの国かはさっぱり分からないけれど、話の続きが気になるので、どこの国かは聞かないことにする。
「祖父は一人で山奥へと入って行きました。この先に何かある。そんな予感を胸に、ただただ歩みを進めて数時間。祖父は、開けた場所に辿り着き、そこで一冊の本を見つけたんです」
今井はおもむろに立ち上がり、本棚から黒い表紙の分厚い本を取り出した。
「これが、その本です。闇の使いである彼等が、妖精たちを封印した本。祖父は闇の結界を解除し、妖精たちはめでたく解放されました。でも」
「でも?」
「以前のように、人間と共に生活するのには危険が伴います。そこで、祖父は人間界と妖精界を繋ぐツールを作ることにしたんです」
「それが、あの本ってこと?」
小さな引き出しが連なった棚を見て、今井がこくりと頷いた。
「妖精たちと、癒しを求めている人間を繋げる。それが祖父の願いで、今では僕の使命です」
いつものハイテンションとは程遠い——妙に落ち着いた雰囲気の今井の背中をただただ見つめる。
使命——言葉で言うのは簡単だ。彼はきっと、その意味を理解したうえでここにいる。
「話してくれてありがとう」
今井の淹れてくれた煎茶を啜り、ほうと息を吐く。まだまだ、世界には知らないことがたくさんあるらしい。それにしても、今井のおじいさまは天才発明家かなにかだろうか……。そんなことを考えていると、今井がニヤニヤしていることに気がついた。
「何笑ってんの?」
「これで、鈴さんも共犯者だなぁって思って」
「き、共犯者?」
さらっと聞こえた不穏な言葉に、持っていた湯飲みから煎茶が溢れた。
「そうですよー。妖精のことは世界的にも極秘情報ですから。安易に誰かに話したら……消されますよ?」
消される——とは、つまりはそういうこと……?
「いや、物騒なこと言わないでよっ。そもそも、消されるって誰に?」
「それは言えません。大丈夫ですよ。黙っていれば消されませんから。オッケー、オッケーです」
ぐっと親指を立てた今井を見て、やっぱりこいつに関わるとロクなことが起こらない——そう確信した。
Fin
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