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お疲れ女子は今日も残業
今日も、何だかんだとサービス残業だった。
パソコン画面に浮かんでいる「退勤」という文字をクリックしてからも、月城 鈴はあいもかわらず作業をしている。
この作業というのは、本来ならこの春入社したばかりの新人、佐武(♂)の仕事だ。退勤の時間が過ぎている鈴にとっては関係の無い仕事(全く関係ない訳ではないが……)——本来ならば。
「すいません。今日は彼女とデートなんです」
佐武はそう言って顔の前で両の手を合わせた。そんなに拝み倒されても困る。私は神でもなんでも無い。そう思いながら心の中で失笑した。
「デートだからなんなの? 」
心の声はこれだ。
けれど、それらは全く別の言葉となって口から溢れた。
「そうなんだ。じゃあ、今日は私がやっておくから定時で帰っていいよ。でも、今回だけだからね」
「ありがとうございますっ。やっぱり、月城さんに頼んで良かったですっ」
やっぱり? やっぱりってなんで、どうしてそう思った。彼氏がいないから残業を引き受けてくれるだろう。いや、むしろ。23歳にもなって彼氏の1人もいないんだから残業くらいしろよ。つまりはそういうことなのか? え、どうなんだ。そこの新人。
そんなことを言えるわけもなく……。
小さく息を吐いてから、新商品が隙間なく詰め込まれている(経験上、開けなくても分かる)段ボールを抱える。この重さは間違いなく食器だ。なんなら、伝票に書いてある。
新商品の入荷を見越して、売り場の整理をしたのは昨日の午後。ある程度イメージを固めてあるので、手際よく並べればそれ程時間もかからない。……はず。
配送中に粉砕するのを防ぐ為の梱包材(今回はしっかりとした造りの箱)からグラスを取り出して眺める。照明を浴びてキラキラと輝く装飾とレースを思わせる模様がとても可愛らしい。
カラーはホワイト、ピンク、ブルー、グリーン。女性が好みそうなデザインと彩色だ。ギフトの需要もあるだろう。かなり手間ではあるけれど、少し場所を変えて目立つところに陳列した方が売り上げも伸びる。そんな気がした。
「月城さん。大量にギフトが入っちゃったのでレジお願いしてもいいですか? 」
同期の工藤 美波に声を掛けられたのは、商品の陳列を変える為にグラスを手に取った時だった。
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