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左投げ遊撃手さん writing
500万あればアパートも借りられるしオーストラリアにだって行ける。
田中は心躍らせながらバッグを開けた。
男の局部のカラーコピーが大量に出てきた。
***
翌日、山本がコンビニでバイトしていると、昨日の強盗犯が入ってきた。
「ぎゃあああ! 出た!」
「昨日の露出狂はどこだ」
「あ、あの人なら今頃警察に捕まってるよ! さっき連絡があったんだ! 犯人の居場所を突き止めたって!」
「なんだと……」
「犯人ってお前のことじゃなかったのかよ! くそっ! あの人は何も悪くないのに!」
田中の手から銃がこぼれ落ちる。
***
「警察だ。大人しく出てきなさい」
露野の住むアパートには10台を超えるパトカーが押し寄せ、大勢の警官が取り囲んでいた。
全裸の露野の逃げ場はどこにもない。
「仕方がない。あの手を使うか」
露野は風呂場の浴槽にセメントを流し込んだ。
急速乾燥と核爆発にも耐える強度を売りにした新発売の超セメントだ。
露野はずっと不思議だった。
公園の銅像は全裸でも許されているのに、何故生身の人間は許されないのか。
だったら俺も銅像になろう。
露野はセメントの海に飛び込み、かっこいいポーズをとった。
「突撃ー!」
警官たちが突入した時、部屋の中は無人だった。
あったのは力道山のように両手を腰に当てた男の裸像だけ。
「くそっ、これを置き土産に本人はまんまと逃げおおせたってわけか」
「どうしましょう警部」
「せっかくだ。近くの公園に置かせてもらおう」
***
「緊急速報です。オーストラリアが消滅しました。原因は核爆弾によるものと――
突然テレビの映像が消えた。
窓の外で閃光が走り、凄まじい爆音が響いた。
***
山本元也(42歳・男性)は荒野を当てもなく歩いていた。
この辺にバイト先のコンビニがあったはずだが、周囲には何もない。
瓦礫があるだけだ。
あの日、全てが終わってしまった。
第三次世界大戦は核兵器の応酬により一晩で終結した。
人類の9割以上を滅ぼして。
たまたまバイトが休みでマンホールに隠れて盗撮をしていた山本は難を逃れたが、この先どうやって生きていけばいいのか。
その時、足元に白いものが見えた。
紙だ。
めくると、見覚えのある男の局部が映っていた。
懐かしさに涙がこぼれそうになる。
「おじさん、それ返して」
顔を上げると子供がいた。
自分以外の人間に出会ったのは初めてだった。
だが、どうして子供がこんなもの持っているんだ。
「坊や、これは?」
子供は平然と答える。
「聖画だよ」
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