西 令草 writing

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西 令草 writing

「聖画・・・って?!誰かがそう言ったの?」 山本は懐かしい局部のコピーを、もう一度まじまじと見つめながら子どもに尋ねた。 「知らないの?おじさん。セイント・キリノの奇跡を?」 「セイント・キリノの奇跡?」  小学3~4年に見える男の子は聖画とされる局部のコピーを、まるで神様を見るようにウットリと見つめながら山本に説明した。 「戦争が始まる少し前、平和公園の入口に突如、セイント・キリノの像が出現したんだ。僕は学校への行き帰り、そこを通るんだ。朝はなかったのに帰りにはもう像が設置されていて、大勢の大人たちが集まってセイント・キリノの奇跡だと口々に(たた)えていたよ。」 「奇跡って、何か特別なことでもあったのかい?」 「その像の局部に触れると傷が治り、痛みは消え、願いが叶うんだ。」 「えええっ?本当かい?それは!」 山本は吹き出しそうになったが、男の子は真面目そうに語っているので何とか笑わずに我慢しながら質問した。 「僕はもう3回も奇跡を体験したよ。1回目はお腹がペコペコで何か食べ物をお願いしたんだ。そうすると急にいい匂いが漂ってきて、公園でボランティアの炊き出しが始まって、カレーライスが配られた。2回目は誰でもいいから知っている人に会いたいとお願いした。そうすると肩をたたかれて振り返るとパパの友だちのトモヤおじさんだった。僕は今、トモヤおじさんと一緒に避難所で生活している。3回目はこの聖画、イコンが欲しいってお願いしたんだ。イコンを持っているだけで幸せになれるって噂だから。そうしたら、次の朝、避難所にセイント・キリノの使徒という銃を持った男が現れて僕にコレをくれたんだ。」  山本は男の子に頼んだ。 「僕もその奇跡を体験してみたいから、セイント・キリノ像まで案内してくれるかい?」 「いいよ。避難所に帰る途中だし。」  瓦礫の街を元気に歩く男の子について行くと、なるほど確かに局部をコピーしていた男とウリフタツの像が公園の入口に堂々と設置されていた。その局部は見事なシンメトリーで天に向かって堂々と突き立っていた。その先端は皆の願いを叶えるため毎日毎日、何百回何千回と撫でられたためだろう、手垢でビカビカに輝いていた。 「核爆弾が落ちた時、すべての建物も木々も何もかも木っ端みじんに破壊されて影も形もなくなってしまったのに、この像だけは奇跡的に少しも損傷することなく原型をとどめていたのです。」 いつの間にか山本の後ろに立っていた年配の女性が、そう話しかけてきた。
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