0人が本棚に入れています
本棚に追加
名探偵の名推理により犯人が自首することに。なんと隣の蕎麦屋の主人が犯人だったとは。私の推理なんてこれっぽっちも当たっちゃいないじゃないか。いやぁ、名作名作。
次の本は何にしようか、家に帰る前に本屋に寄ってみるのもありだな、なんて思いながら駅名を見ると、4駅分も進んでいた。
おや、またまた没頭し過ぎてしまったようだ。
市内で1番賑わっている駅なので人の乗り降りも激しい。電車が二酸化炭素を吐き出すように人が出ていき、酸素を取り入れるように人が乗ってくる。
そしてなんと、再三、向かいの席にはカップルが座っている。
先ほどの地味目なサラリーマンカップルとは違う、大学生くらいのオシャレな格好の。
なんだろう、本当にカップルシートなのだろうか、いや、私が世間に疎いだけで、女性専用車両のような、カップル専用車両ができたのだろうか。
そうだったとしたらマズい、私はシングルなのに図々しくもずっと乗ってしまっていて、しかも我が物顔で席にまで座ってしまっている、そんなに恥ずかしい行為はなかなかない。慌てて周りを見渡すと…よかった、どうやら私の杞憂だったようだ、1人で乗っている人の方が多いじゃないか。ヒヤヒヤさせてくれる、カップルめ。
しかしどうだろう、今回のカップルは服装もオシャレでいて、騒がしくするでもなく、周りに気を遣わせるような行為をするでもなく、何より美男美女じゃないか。
なんという高好感度カップルだろうか、よし、許そう、そのカップルシートはキミたちにこそふさわしい。キミたちをモチーフにした文章を小説投稿サイトに投稿してみようか。カップルの物語なんて書いたことがないから、本屋で恋愛モノの小説でも買って勉強してみるか。よし、なら1つ手前の駅で降りて新しくできた本屋に行ってみよう。
目的の駅に到着するアナウンスが流れたので、少し早めに立ち上がり、ドアの前で待機する。
今度は私が二酸化炭素になり、吐き出されるように車両から降りるとき、チラッとカップルシートを振り返ると、大きな野球鞄を床に置いた高校生の男の子2人が座っていた。
私は地上行きのエスカレータへ向かいながら、「なるほどねぇ」と呟いた。
最初のコメントを投稿しよう!