顔を上げるたび向かいのカップルが替わってた日の話

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鞄から本を取り出して読もうと思うと、強烈な臭いが車内に充満していることに気がついた。マスクの外からでも鼻を刺激する、思わず眉間にシワをよせてしまうほどの強い香水の匂い。 顔を上げず、下をむいたまま目だけを働かせて臭いの発生源を探す。おそらく、向かいに座っているカップル、ブランドのロゴを大々的に押し出した服装を身に纏った、若いアジア系外国人の男女。 男が女の肩に手をまわし、女は男の肩に頭を任せた状態で男の顔を見上げている。今にもキスをしてしまいそうなくらいの距離感で、、あぁ、やりやがった。 もしもーし、ここは日本ですよー、地下鉄の車内ですよー、と声をかけて教えてあげたいくらい周りなんて見えていない状態だ。もう知らない、あなたたちが2人の世界に入っているなら、私は本の世界に埋没してやり過ごしますからね。まったく、大好きなミステリーを読む時間を持ってかれてしまった。 もう少しで犯人がわかるんだ、匂いなどで邪魔しないでいただきたい。犯人の目星はおおよそ付いているが、トリックがわからない。彼には十分なアリバイがあるんだ、注意深く読んでいかないと。
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