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プロローグ
自の喪失。我の放浪。
そして、人間性の剥奪。
失うことで大切さに気づく。
まるで呼吸を忘れて窒息するように。
ああ、何をすればいいんだろう。
何を目指せばいいのだろう。
世の中に溢れる名詞は分かっても、考えることができない、意見がない、意志がない、そして、個性……ない。
生憎記憶は傷ついていないようで、過去の自分は笑っていられる。
でも必要なのは未来であって、未来の俺は……思いを馳せることもできない。
未来を思い描けたなら、未来を見据えることができたならどれほど救われるのだろうか。
ああ、なぜよりにもよって思考力を失ったのだろう。手や足ではなく、命でもなく。
でもそれは時に命と等価値でもあるもの。アイデンティティを奪われたのだ。
今の俺はまるで翼をなくし鷹のようで、はさみをなくしたカニのようで、でもどちらとも違う。
ああ、もう何も考えたくない、考えられない。
今何かを考えようとしても苦しいだけで、ただ自分が嫌になるだけで、そして自分を見失いそうになるだけで、なにも良い方向へ動かない。
こういったときは寝るのが一番。寝ているときは何も考えようとする必要がない。時々あの日の悪夢を見るくらいで、それを除けば逃避するのにもってこいの方法だ。
ただ、この結論に至るのも今日一日で三度。あれほどなついていた睡魔たちも気づけば俺から去っていった。前までうっとうしかったそれでさえ、今は恋しく感じる。
そうであっても意識を預けようとするのだ。眠っているうちに命までも奪ってくれるような夢を思い描きながら。
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