部長の秘密

1/8
12人が本棚に入れています
本棚に追加
/8ページ
「すみません。私は来月だけ、時短勤務になります」 「えっ」  昼休憩中。自分のデスクで弁当をほおばっていた僕は、部長の報告にむせ返った。 「ああ、すみませんね」  部長が優しく背中をさすってくれたけど、そんなことされたらまた変な勘違いをされそうだから、やめて欲しい。  僕と部長が仲良くしていると、勝手に変な噂をされるのだ。そんな仲ではないのに。部長には奥さんと娘さんがいるし、僕は男に興味を持ったことはない。  部長が男の()のようなかわいらしさがあれば、僕も間違いを犯すかもしれないけど、部長はハゲかかったオッサンだ。  大丈夫です、と手を払い、 「で、どうしたのですか」  と、部長に話の続きを催促する。  理由ぐらい教えて欲しい。 「家庭の事情です。昼出勤で、暗くなる前には帰ることになります」  部長はそうにっこり笑うと、僕から離れていく。 「え、どんな事情なんですか」  いつもより冷たい感じの部長の態度が飲みこめずに、僕は思わず聞いてしまった。 「そういうことを聞かないのが社会人ですよ。とりあえず、私は十月だけ、昼から夜の間だけの出勤になりますので、よろしくお願いしますね」  有無を言わせない笑顔で押し切られて、僕は立ち去る部長の背中を見つめることしかできなかった。    なんで、部長は僕に相談してくれないんだ。いつも困ったときには話し合う仲じゃないか。  なにか隠しているのか……?
/8ページ

最初のコメントを投稿しよう!