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「すみません。私は来月だけ、時短勤務になります」
「えっ」
昼休憩中。自分のデスクで弁当をほおばっていた僕は、部長の報告にむせ返った。
「ああ、すみませんね」
部長が優しく背中をさすってくれたけど、そんなことされたらまた変な勘違いをされそうだから、やめて欲しい。
僕と部長が仲良くしていると、勝手に変な噂をされるのだ。そんな仲ではないのに。部長には奥さんと娘さんがいるし、僕は男に興味を持ったことはない。
部長が男の娘のようなかわいらしさがあれば、僕も間違いを犯すかもしれないけど、部長はハゲかかったオッサンだ。
大丈夫です、と手を払い、
「で、どうしたのですか」
と、部長に話の続きを催促する。
理由ぐらい教えて欲しい。
「家庭の事情です。昼出勤で、暗くなる前には帰ることになります」
部長はそうにっこり笑うと、僕から離れていく。
「え、どんな事情なんですか」
いつもより冷たい感じの部長の態度が飲みこめずに、僕は思わず聞いてしまった。
「そういうことを聞かないのが社会人ですよ。とりあえず、私は十月だけ、昼から夜の間だけの出勤になりますので、よろしくお願いしますね」
有無を言わせない笑顔で押し切られて、僕は立ち去る部長の背中を見つめることしかできなかった。
なんで、部長は僕に相談してくれないんだ。いつも困ったときには話し合う仲じゃないか。
なにか隠しているのか……?
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