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部長が降りた駅の周りは、住宅やマンションばかりで、閑静なベッドタウンといった感じだ。
……部長はここでなにかすることがあるのだろうか。もしや、不倫とか?
いやないな。と、僕はすぐに打ち消した。
だって、部長は溺愛する娘さんの話をよくしてくるし、奥さんに対する愚痴なんて聞いたこともない。
でも、まさかということもある。おしどり夫婦と言われてた芸能人が不倫で離婚なんて、よく聞く話だ。
おっ……?
慎重に足を進めながら迷推理をしていると、部長は森の中に入っていった。
住宅ばかりの町並みに突如現れた森は、隣の保育園より狭いけど存在感がある。立派な大木におおわれている。
まさか、森で密会?
まだ下世話な推理を止めずに、森の入口へと僕は歩を早めた。
と、その入口には、神社の名前が彫られた石燈籠と鳥居。
力なく瞬く電灯が点き始めたその入口は、異様な不気味さを醸し出していて、僕の足がその先に進むのをためらう。
ぞくり……。
なんでだろう。さっきまで暑かったはずなのに、寒気がしてくる。
けど、大の大人がこんなことで、びびったりしない……。しないはずなんだけど、僕はびびりで、恐怖体験番組をテレビで見たらトイレ行けなくなるタイプなんですよ! なんで部長はこんなところに来たんですか!
部長に怒りが沸いてくる。
その怒りの矛先である部長は、石畳の参道の先にある社に入って、戸をぴしゃりと閉めた。
僕は怒りに任せて参道を突き進み、戸をがっと開けた。
「悪霊退散!」
部長が声を張りあげ、僕は押し倒された。
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