12人が本棚に入れています
本棚に追加
僕の体に部長が覆い被さるかっこうになった。
部長の体のぬくもりがワイシャツを通して伝わってくる。目と鼻の先で、たよりない髪がふわりと揺れた。
これが麗しい女性なら、甘い香りが艶やかな髪からただよってくるのだろうか……。
……て、なんで僕は、女ではなく、ハゲたオッサンとこんなことになってるんだよ!
こんなハプニングは、美男美女にかぎるもんだろ?
「なにを」
「なにをしているんですか!」
なにをするんです、と文句を言おうとしたら、顔をあげた部長にものすごい剣幕で迫られた。
こんな風に部長が怒った顔は見たことがない。
僕の苛立ちはすっと消え失せ、いやな汗が流れてくる。
部長の様子を見れば、僕がまずいことをしでかしたことがわかる。
「す、すいません。部長がなにをこそこそしてるのか気になって……」
怖い部長の顔をまともに見れずに、目をそらす。正直に白状した声はかすれた。
「まったくもう、君は……」
はぁ、と部長は力なく笑いながら息を吐くと、顔を引きしめた。
「帰ってください」
部長は立ち上がると、再び社の中へと入っていく。
「待ってください。なにをしているのか教えてください」
部長の怒りは怖いけど、ただ帰れと言われても納得できない。
謎を解くために探偵になりきってここまで尾行して来たんだ。探偵は謎を解きたい。
と、部長がこちらをキッと睨んだ。
ひぃっ、と息をのんだ次の瞬間、部長はこちらへ飛び出してきた。
また押し倒されるのかと、身構える。
最初のコメントを投稿しよう!