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新規のお客
今月も、残りわずか。今日こそは、新規の顧客をとらないと。今月の売上目標を達成できない。そんな焦りを隠し、先輩ホストのヘルプに付く。
ここは、夜の蝶を癒す店。きらびやかな彼女たちが、羽を休める場所。
だが、売れないホストの俺に出来るのは、枕営業で客をとることくらい。
「いらっしゃいませ」
黒服の言葉に、入り口へと目を配る。店に来たのは一見の、一目でキャバ嬢だと分かる、派手な身なりの女。
先輩は女に愛想笑いを浮かべたあと、俺に行けと目で合図を送った。
女は恐らく、俺のように売れないキャバ嬢だろう。派手なメイクと、ハロウィンのコスプレみたいに安っぽいドレスを身につけている。
「ご新規様ですか?」
念の為に確認すると、そうですと答えた。女が近づくと、甘ったるい香水の匂いが鼻をつく。
「では、ご案内します」
女はコクリと頷き、小さなバッグを両手で握りしめたまま、俺の後ろを歩く。
この店のルールでは、初めて接客をしたホストが客の指名になる。つまり、彼女は俺の客になったということだ。
ただ正直、あまり嬉しくはない。羽振りの悪い客は、ホストにとって、時間泥棒でしかないからだ。
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