抓った頬は痛かった

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「ごめん、本当に大丈夫だから。気にしないで。仕事行ってくれていい。」 「私にはそう見えないよ。黙っていられると悲しいな。ほら、話せば気持ちがいくらか楽になるかも知れない。」 さっき彼を振り払った右の手を両手で包まれる。特有の熱に悪寒が走った。今まで心地よかった彼の体温からは今では気持ちの悪い生温さを感じる。 「っやめろ!触んなっ…!」 押し退けた反動でバランスを崩して、尻餅をついた。ほとんど反射的な行動に脳がやっと追いつく。優一を仰ぐと、吸い寄せられるように目が合った。一重の柔らかい目元がいつもより(ひら)けていて、感情がよく映っていた。辛そうに、なんで?と訴えかけてくる。なんで、なんでなんだ。俺こそ聞きたい。自分自身に、胸ぐらを掴んで、詰め寄りたい。彼の目の色が心に突き刺さる。ひゅうと喉が鳴る。ごめん、と一つ零れたのを皮切りに次から次へと口をついて出る。 「ごめん、ごめん…ごめんなさい……ご、め……っごめん……。」
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