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もう耐えきれなかった。どうしようもなく涙が溢れてきた。辛くて、悲しくて、心がじりじりと痛かった。火で炙られるのと似た痛みだった。彼以外と体を重ねてしまったこと、彼とあの男を結び付けてしまったこと、彼の優しさを無下にしたこと。申し訳なさが身体の内で膨らんで、皮膚を内破しそうだった。
「……天音…。」
触れようと伸びる手の影が見えた。身体がびくりと固くなる。影も固まる。そして、痛々しさの響きを持ってぎこちなく下げられ、胴のそれと一体化した。
暑い夏の日だった。溶けそうなくらい暑い日だった。汗を纏う前髪が、額に貼り付いて気持ちが悪かった。でも、比喩で終わらないでいいと思った。本当に溶けてしまいたかった。どろどろになって形を無くして、全部忘れて、骨も残らず消えてしまいたかった。
真夏の湿気た空気は涙を枯らさない。
アスファルトには、鈍色の染みがいつまでも残っていた。
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