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プロローグ
陽も沈みかけ、宵闇が幽寂と森を包みこんだ。
いくつもの山の裾に裂かれたその深い森の奥。苔むした岩肌の山の袂に、ぽっかりと開いた岩窟があった。その岩窟の最奥には、人足も絶えて久しい古ぼけた堂塔があり、広大な岩窟の闇の中で、静かに時を止めていた。
昔、この地域で深く信仰された、今はもう名も忘れ去られた神仏を祭った寺院の跡であった。
堂の扉はだらしなく傾き、僅かに開いたその扉は、止まった時の中へと誘うかのようだ。その隙間から、何か音が漏れてくる。低い音だ。風の音とも、獣の唸り声とも取れる音で、声なのか音なのかの判別は難しい。中は埃っぽい石畳と石壁に囲まれた、礼拝堂であった。
中央を通路に長椅子が左右に八列並び、礼拝堂の奥には、三段ほどの横に延びた石段があった。その石段の上には整然と無数の蝋燭が大小様々に立てられ、いくつかの蝋燭に火が灯されていた。この堂内に、不気味な音とも声とも分からない音が響いていた。
その石段の前に人影が四つ。一人は紺地の長衣に身を包んだ者で、深く頭巾を被っていた。その隣では、黒髪の壮年の男が松明を片手に立っていた。
石段と二人の間には、石畳に横たわる黒く焼け焦げた女と、鎖鎧に身を包む頭を剃り上げた大柄な男がその女の前で額ずいていた。腰には剣を帯びている。焼死した女に何があったのか?
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