5人が本棚に入れています
本棚に追加
🌙ことりのつぶやき 2
沙月先輩は、見た目通り、爽やかな人だった。先輩の口から、人の悪口や、文句など、聞いたことがない。その形のいい唇から出る言葉は、いつも人の心を柔らかくする。
(純粋培養みたいな人だな)
そう私が思っていたら、沙月先輩が突然、
「純粋培養みたいだね」
と言ったので、私は飛び上がらんばかりに驚いた。
「え、な、なんですか?」
私が狼狽えながら訊くと、先輩は、
「琴理ちゃんて、純粋培養みたいな子だよね。性格がまっすぐで、おっとりしてて」
と答えた。
「全然、まっすぐじゃないですよ」
私が心の中で思っていることは、純粋培養どころか、毒だらけだ。先輩を蝕む毒。
「私の小鳥ちゃん」
と沙月先輩が言う。
「先輩は私のお月さまです」
と私が答える。
私は沙月先輩の小鳥。先輩を毒で殺したくはないから、せめて先輩に懐く小鳥でいる。
たとえ先輩がほかの鳥を見ていていようが、私はずっと、先輩の小鳥。
先輩が、大きな鷹と恋に落ちた。
鷹は大学の経済学部に通うラガーマン。日焼けした肌が輝く、絵に描いたような好青年。
「真っ先に、琴理ちゃんに紹介したかったんだ」
沙月先輩は、そう言ってにっこりと笑った。私もにっこりと笑った。胸に大きな矢が刺さったような衝撃を受けているのに、案外、笑っていられるもんだなあ、と暢気なことを思った。
「よろしくね。沙月がいつも君のことを話しているから、会いたかったんだ。想像通り可愛らしい人だね」
鷹はそう言って、私に手を差し出した。私がその手をそっと握ると、力強く握り返してきた。この手は、さっき、沙月先輩の肩を抱いていた手だ。
鷹は、先輩に触れることに躊躇などしない。私は彼のように気軽に月に触れることができない。私はやっぱり、その辺にいる小雀だ。
「私、ちょっとお手洗い」
沙月先輩が席を外した。
私はこの隙に、鷹の欠点を見つけてやろうと、彼の方を見た。すると、鷹はすでに私の方を見ていて、私達は目が合った。
最初のコメントを投稿しよう!