🌙ことりのつぶやき 2

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🌙ことりのつぶやき 2

沙月先輩は、見た目通り、爽やかな人だった。先輩の口から、人の悪口や、文句など、聞いたことがない。その形のいい唇から出る言葉は、いつも人の心を柔らかくする。 (純粋培養みたいな人だな) そう私が思っていたら、沙月先輩が突然、 「純粋培養みたいだね」 と言ったので、私は飛び上がらんばかりに驚いた。 「え、な、なんですか?」 私が狼狽えながら訊くと、先輩は、 「琴理ちゃんて、純粋培養みたいな子だよね。性格がまっすぐで、おっとりしてて」 と答えた。 「全然、まっすぐじゃないですよ」 私が心の中で思っていることは、純粋培養どころか、毒だらけだ。先輩を蝕む毒。 「私の小鳥ちゃん」 と沙月先輩が言う。 「先輩は私のお月さまです」 と私が答える。 私は沙月先輩の小鳥。先輩を毒で殺したくはないから、せめて先輩に懐く小鳥でいる。 たとえ先輩がほかの鳥を見ていていようが、私はずっと、先輩の小鳥。 先輩が、大きな鷹と恋に落ちた。 鷹は大学の経済学部に通うラガーマン。日焼けした肌が輝く、絵に描いたような好青年。 「真っ先に、琴理ちゃんに紹介したかったんだ」 沙月先輩は、そう言ってにっこりと笑った。私もにっこりと笑った。胸に大きな矢が刺さったような衝撃を受けているのに、案外、笑っていられるもんだなあ、と暢気なことを思った。 「よろしくね。沙月がいつも君のことを話しているから、会いたかったんだ。想像通り可愛らしい人だね」 鷹はそう言って、私に手を差し出した。私がその手をそっと握ると、力強く握り返してきた。この手は、さっき、沙月先輩の肩を抱いていた手だ。 鷹は、先輩に触れることに躊躇などしない。私は彼のように気軽に月に触れることができない。私はやっぱり、その辺にいる小雀だ。 「私、ちょっとお手洗い」 沙月先輩が席を外した。 私はこの隙に、鷹の欠点を見つけてやろうと、彼の方を見た。すると、鷹はすでに私の方を見ていて、私達は目が合った。
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