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🌙ことりのつぶやき 1
「琴理さんのこと、大好きよ」
「私も、沙月先輩のことが、大好き」
嘘は言っていない。
私は沙月先輩が好きだ。
ただ、先輩の言う「好き」と、私の言う「好き」の意味が違うだけ。
「私の小鳥ちゃん。今日もかわいいね」
先輩はそう言って微笑む。私の名前が琴理だから、先輩は私のことを「私の小鳥ちゃん」と呼んでかわいがってくれる。
「琴理ちゃんは沙月にべったりだね~たまには、私の隣に来ない?」
別の先輩が笑いながら言う。
「だめ。琴理ちゃんは私の小鳥ちゃんなの」
沙月先輩はそう言って、私の肩に無邪気に抱き着く。
私は先輩の白い陶器のような腕を間近に見て、胸から上が熱くなった。
その熱で顔が赤くなっていることに、沙月先輩や、他の先輩に気づかれやしないかと思い、慌てて、
「先輩、熱い!」
と言って、振りほどいてしまった。
そんな風にふざけながら、今日も部活が始まる。
古い校舎の古い部室。私達はせっせと針を動かす。
部員5人の手芸部は、各自好きなものを勝手に作る。編み物をする人、ぬいぐるみを作る人、刺繍をする人。
私と沙月先輩は、レース編みだ。
この高校に入学して間もない頃だ。女子校は思っていたよりも騒がしいところで、私は少し辟易していた。帰宅部でいいかな、と思いながらフラフラと歩いていた時、沙月先輩が部室でレース編みをしている姿を、たまたま廊下から見かけた。少し赤味を帯びたショートボブの髪。白く冴えた月のような横顔。すらりと伸びた足を組んで、「白魚のような」という表現がぴったりの手で、レースを編んでいた。その姿を見た瞬間、「この人は月だ」と思った。
「見学ですか?」
沙月先輩が私に気づいて、声をかけた。
「入部希望です」
そう答えて、私は見学もろくにせず、その場で入部した。それからずっと、沙月先輩と同じレース編みをしている。
私達はすぐに仲良くなった。
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