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第一章/#01-01.定時ゆりりんの裏の顔
「お先に失礼しまーす」
定時である17時を迎えると、帝司美百合は、ショルダーバッグを肩にかけて立ち上がり、周りの人間に挨拶をして真っ先に退社する。いつも、寸分の狂いもなく、17時ジャストに離席することから、影で、『定時ゆりりん』と呼ばれていることも彼女は知っている。またの名を、『氷百合』。
フロアを颯爽と抜け、通路を歩いていると、周囲の視線が熱い。痛い。
「わあ……。知財部の帝司さんだ……相変わらず綺麗……」
「ほんとほんと。近くに来るだけでふわっ、っていい香りがするのよね。すこしは分けて欲しいわよね、いい女フェロモン……」
「あのツンとした感じがたまらないのよねー。あー笑ってくれないかしらぁ……」
フロアにいる女子社員に噂されるのもいつものことだ。――美は、努力を要求する。生まれながらに美しいものは美しくあることを求められる。定時もとい帝司美百合の名に恥じぬよう――周囲からの期待を裏切らぬよう、彼女は、努力を怠らない。
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