花火と本音

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花火と本音

暗い畦道を歩いて、飛び石で川を渡る。 蛍がぼんやり照らす道を踏み外さないように一歩一歩踏みしめて向かう。 暫く歩いて着いたところはある丘の頂上。 人気もなく静かで綺麗なところ。 二年前の夏祭りの時に二人きりで見たくて 前日に探して見つけた場所。 二人でベンチに座って足を投げ出す。 花火の時間まであと少し。 綺麗な星空を見上げてこいつは静かに呟いた。 「あのね、 私、この花火見たら、消えちゃうの」 『え、』 それは現実を突きつける言葉で、 一種の死刑宣告のようなもので。 「本当なら、 一緒にいられるだけでも凄いの」 大きな音をたて一発目の花火が上がった。 次から次へと花火は夜空に光を散らす。 けれど、それも一瞬のことで 残されるのは静寂と少しの淋しさだけ。 「だから…」 花火から目を離したこいつは、 俺の方を見て泣きそうな顔で微笑んだ。 それをみたら言わないでおこうと思ってた言葉が水のように溢れた。 『嫌だ、いかないでくれよ。 消えてほしくない、忘れたくない。 頼むから、また俺を一人にするなよっ!』 俺の声が花火が鳴るこの場所に響く。 また花火が打ち上がって消えた。 次の花火が上がるまでの少しの沈黙。 それを破ったのはあいつの声だった。 「…私だって、 私だって、生きていたかった! 君の隣でずっとずっと死ぬまで一緒に 生きていけるって思ってた! 消えたくない。忘れられたくない。 ずっと君の隣にいたい!」 また花火が打ち上がって、 夜空を色とりどりに染め上げる 「でも、そんなの許されない、から。」 『…っ、嫌だ!』 あいつの体が透けていく。 握る手も冷たさすら感じなくなった。 体はもう向こう側がはっきりとみえるくらいに消えかかってる。 ぽろぽろと泣きながら嫌だ嫌だと、小さな子どもが叶わない我が儘言うように首をふった。 あいつはそんな俺を見て呆れたように、 けれど嬉しそうに優しく微笑んだ。 それはまるで聖母のように美しかった。 「駄々こねないの。 私の分まで沢山幸せになってね。 その為だったら忘れられたっていい。 …大好きだったよ。」 チリンとどこかで鈴がなって、最後の一発が打ちあがり夜空一面に広がってそして、跡形もなく消えた。 …まるで、さっき消えたあいつのように。 一人になった俺は誰もいなくなった この場所で静かに誓いをたてた。 『…絶対忘れない。 ちゃんとお前の分まで幸せになるけど、 これだけは譲らないからな。 勝手に過去形にしやがってさー…… 俺がどんだけっ、どんだけお前のことが 好きで好きで仕方ないか…… もう、過去形にできないくらい 何回だって言ってやる。 俺はお前が、今でも大好きなんだよ。」 死んでからも愛してやるから覚悟しとけよ。
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