陽炎と夏祭り

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陽炎と夏祭り

ある夏の日、死んだはずのあいつは 『な、んで……』 「えへへ、」 何故か俺の前に姿を表した。 『…』 「え、あれ?見えてる?おーい」 『っえ、おま、』 「あ、見えてた見えてた」 よかったーなんて呑気に笑ってるあいつは 昔と瓜二つでまるであの頃に戻ったみたいな。 でも、そんなのおかしいくて。 あいつが見えるはずがない。だってあいつは… 『なんで、?死んだんじゃ…』 あいつは二年前の今日、俺と一緒に行く 予定だった夏祭りに来る途中で事故に遭って… 「うん、死んだよ」 つきんと胸がいたんだ。 もう、こいつが居ないことには 慣れたと思ったのに。 「でも、君うだうだしてるんだもん 見てられなくて来ちゃった」 『来ちゃったって…』 うだうだもしてねー…とは言い切れないか。 立ち直ったと思っていたんだけどなぁ…… 「大丈夫、誰にも見えてないよ。 ほら体とか向こう側がうっすら透けて 見えるし、ゆらゆら揺れてるでしょ? まぁ、陽炎だと思ってよ。」 陽炎、か。 そういえばあの日も陽炎がでてたな。 事故の原因だって暑さと陽炎の揺れで、 視界がぼやけて手元が狂ったって…… そこまで思考が落ちたとき、ふと腕に何か 冷たいものを感じた。 それは半透明のあいつの手。 「ねぇ、夏祭りいこうよ」 『は、?急になんで…』 「いいから、いいから、ね」 あの日のやり直しなんて言うこいつに、 半場引きずられながら連れてかれた夏祭り。 そういえばこいつが死んで以来、 来てなかったな…… あの頃は夏祭りに誘った自分を散々責めて 夏祭りをみるとあいつを思い出すからと 家から出ないこともあったな。 「やっぱり、変わってないねー!」 目の前でふわふわと浮きながら、楽しげに 周りを見渡すこいつはあの頃と変わらない。 『そうそうに変わんねーよ』 「だよね、あ、りんご飴」 『食うなら早くしろよ? もうすぐ花火上がるんだから』 ……いや、まずもって食えるのか?? 「んじゃ、いーや。何処で見るの?」 『前いいところ見つけたからそこで。』 「うん」 冷たい半透明のこいつの手を繋いで歩き出す。すこしでも自分の体温で温かくなればいいのになんて思うのはきっと、夜なのに暑い夏のせいだと思う。
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