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「それはそうと、朱里はここの夏祭りって行ったことある?」
凜は雑にたたまれたチラシをポケットから出し、朱里に見せた。
小学校に上がる前に父親が出店の手伝いをするからと、一緒に家族で行ったことある小さな商店街のお祭りだ。
まだ赤ん坊だった弟に気を取られていた母からはぐれてしまい、気が付けば兄と二人で必死に親を探した思い出がある。
自分も不安で仕方がなかったはずなのに、弟を不安にさせないようにぎゅっと握っていた兄の手がすごく逞しく感じていたものだ。
―――あの時も兄貴に助けられていたのか。
すっかり忘れていた記憶がよみがえり、胸の内に何とも言えない重たいものが集まっていくような感覚がした。
「……ないわけじゃないけど、この祭りがどうかしたのか」
「オレ、同い年の友達とこういうところ行ったことなくてさ。朱里と一緒に行きたいんだ」
赤みかかった茶色の瞳が輝き、朱里の返事を待っている。
見た目が派手なせいで編に目を付けられやすい朱里はあまり夜は外を歩かないようにしているのだが、大変な生活をしてきただろう凛の期待に満ちた視線に断り切れず、気が付けば連絡先を勝手に押し付けられ約束をこじつけられていたのだった。
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